2017年8月16日
夏の暑さも吹き飛ばす,これぞ地獄
これぞ極楽往生
1000年忌特別展 源信 地獄・極楽への扉
奈良国立博物館 学芸部情報サービス室長・岩井 共二
「厭離穢土」「欣求浄土」という言葉を御存じでしょうか。徳川家康の旗に使われていて,戦国時代のドラマなどで見かけたことがあるのではないでしょうか。この二つの言葉は合わせて「けがれたこの世をいとい離れて,極楽浄土に生まれたいと願う」という仏教用語です。
この厭離穢土・欣求浄土という言葉をメジャーにしたのは,徳川家康ではありません。家康にこの言葉を教えたのは浄土宗のお坊さんでした。そして,この言葉は,浄土宗が始まるよりも古い,今から千年以上前に書かれた『往生要集』という本の中に出てくるのです。
書いた人は,恵心僧都源信(942~1017)。比叡山延暦寺のお坊さんでした。『往生要集』は,源信が永観二年(984)から6か月で書き上げたもので,極楽往生するためには,どうすれば良いのかを説いた,いわば平安時代の「終活ハウツー本」です。
この本が当時の人々に大きな衝撃を与えたのは,源信が紹介した死後の世界のビジョンが,あまりに衝撃的だったからです。冒頭で紹介した「厭離穢土」「欣求浄土」とは,全10章からなる往生要集の冒頭,2章のタイトルでもあり,この2章に,今回の展覧会のテーマでもある「地獄」と「極楽」の様子が詳しく描かれているのです。
仏教では,この世界では,地獄・餓鬼(常に飢え渇いている鬼)・畜生(鳥獣魚虫),阿修羅(戦に明け暮れる神),人,天(天界の住人)という六道のどれかに生まれ変わるといい,六道の世界では,苦しみから逃れられないのだといいます。
とりわけ,悪いことをした人が死んだ後に行く地獄では,臼ですりつぶされたり,刀で切り刻まれたり,燃えさかる炎で何度も焼かれたり,ひたすら痛い思いをさせられたりします。悪いことをしてこの世では捕まらなくても,あの世での裁きからは逃れられません。

国宝 地獄草紙 奈良国立博物館
※8/8~9/3展示
そして,死後に生まれ変わってあれこれ苦しい思いをしないためには,阿弥陀如来のいます「極楽浄土」に往生(生まれ変わること)すればよいというのです。そして,臨終に際して,極楽から来迎(お迎えに来る)阿弥陀とたくさんの菩薩たちの姿を思い描くイメージトレーニングである「観想念仏」の仕方を源信は説いたのです。
源信によって日本の仏教及び仏教美術は大きく発展しました。地獄の恐ろしさや六道の苦しみを伝えるための六道絵や,極楽からお迎えに来る阿弥陀さまを思い描くイメージトレーニングのための,阿弥陀聖衆来迎図の名品が,平安時代から鎌倉時代にかけて数多く作られたのは,源信の『往生要集』の影響を受けたからだといいます。

国宝 阿弥陀聖衆来迎図 和歌山・有志八幡講
※8/22~9/3展示
今度の展覧会は,源信が亡くなってから一千年経つのを記念して,源信が示した地獄・極楽の世界を体感していただこうというものです。恐ろしい地獄絵の名品に身震いし,ありがたい来迎図の名品を前に,極楽往生の境地にひたってくださいませ。
奈良国立博物館
(住所)〒630-8213 奈良県奈良市登大路町50番地
- 問合せ
- 050-5542-8600(ハローダイヤル)
- 交通
- 近鉄奈良駅下車 登大路町を東へ徒歩約15分
JR奈良駅又は近鉄奈良駅から市内循環バス外回り(2番)「氷室神社・国立博物館」バス停下車すぐ - 開館時間
- 午前9時30分~午後5時まで
※毎週金,土曜日は,名品展・特別陳列のみ午後8時まで
(入館は閉館の30分前まで) - 休館日
- 毎週月曜日(休日の場合はその翌日。連休の場合は終了後の翌日。)
- 観覧料
- 一般520円(410円),大学生260円(210円)
- ※()内は20名以上の団体料金
- ※高校生以下及び満18歳未満,満70歳以上の方は無料です。(年齢のわかるものが必要です)
- ※障害者の方とその介護者各1名の方は無料となります。(障害者手帳が必要です)
- ※中学生以下の子供同伴の方は団体料金が適用。(子どもといっしょ割引)
- ※毎月22日は「夫婦の日」。御夫婦で御来館の方は半額
- ホームページ
-
http://www.narahaku.go.jp/
1000年忌特別展「源信 地獄・極楽への扉」
- 開催期間
- 7月15日(土)~9月3日(日)
- 開催時間
- 午前9時30分~午後6時まで
※毎週金・土曜日と8月6日(日)~15日(火)は午後7時まで
※入館は閉館の30分前まで - 休館日
- 毎週月曜日,7月18日(火)
※ただし7月17日(月・祝),8月14日(月)は開館 - 観覧料
-
一般 高校・大学生 小・中学生 当日 1,500円 900円 500円 前売・団体 1,300円 700円 300円 - ※観覧券は,当館観覧券売場のほか,近鉄の主要駅,近畿日本ツーリスト,JR東海ツアーズ,JTB,日本旅行,ローソンチケット(Lコード57068),セブン―イレブン,チケットぴあ(Pコード768-302),イープラスなどで販売。
- ※団体は20名以上です。
- ※障害者手帳をお持ちの方(介護者1名を含む)は無料です。
- ※この料金で,名品展(なら仏像館・青銅器館)も観覧できます。
- ※奈良国立博物館キャンパスメンバーズ会員の学生の方は,当日券を400円でお求めいただけます。観覧券売場にてキャンパスメンバーズ会員の学生であることを申し出,学生証を御提示ください。
- 展覧会詳細
ページ -
http://www.narahaku.go.jp/exhibition/2017toku/genshin/genshin_index.html