2019年2月25日
おひなさまと日本の人形
東京国立博物館 学芸研究部 調査研究課工芸室 研究員 三田覚之
3月3日は桃の節句。華やかで楽しいお雛さまの季節ですね。東京国立博物館(以下,トーハク)では毎年「おひなさまと日本の人形」と題した特集展示を行っています。御注目していただきたいのは,内容が毎年異なるということ。毎年様々なお雛さまに出会えるのも,トーハクにおける展示の見どころです。
今年は江戸の有力な金物商であった三谷家伝来の牙首雛(頭部や手足が象牙でできた雛人形)と雛用御殿を中心として,日本における人形の代表例として,御所人形の名品を一堂に会します。
まずは牙首雛。高さ10センチ前後という小さなお雛さまですが,贅を凝らした細部の作り込みが見事な作品です。このお雛さまには京都御所の正殿を模した立派な御殿が付属しているのですが,実際の建築物をそのまま縮小したような組物の精緻な出来栄えは,他に例がないほどです。ただ,実際にお雛さまを並べてしまうと,男雛・女雛のお内裏さまがほとんど見えなくなってしまいますので,ここに図版を挙げました。

牙首雛 江戸時代・嘉永3年(1850)頃
三谷てい氏寄贈

紫宸殿(雛用御殿) 江戸時代・嘉永3年(1850)頃
三谷てい氏寄贈
また,お雛さまというとお道具も重要ですが,この牙首雛にはこれまたすごい雛道具が付属しています。その名も「紫檀象牙細工蒔絵雛道具」。貴重な紫檀という材に象牙で作った金物を取り付け,金銀の蒔絵が施されています。箪笥を開けると,婚礼を象徴する蝶が乱れ飛んでいるという華やかな逸品です。

紫檀象牙細工蒔絵雛道具 江戸時代・嘉永3年(1850)頃
三谷てい氏寄贈
ところで,日本は諸外国に比べ,著しく工芸的レベルが洗練された人形文化を持っていますが,その中でも代表的なのが御所人形です。宮中を始め,公家や大名家において愛玩された人形で,丸々と愛らしい幼児をかたどっています。今回は手のひらにのる小さなものから,高さ70センチを超える大きな御所人形も展示します。
なかでも私のお気に入りは「御所人形 立子」。渦巻く龍の刺繍を施した中国風の衣装を着ています。やや吊り上がり気味にぱっちりと開いた大きな瞳,きゅっと結ばれた口元は可愛らしい中にも意思の強さをうかがわせます。決して見るものに媚びてはこない気品高い可愛らしさ。芸術的に洗練された人形美の神髄を伝えてくれます。

御所人形 立子 江戸時代・19世紀
「カワイイ」という言葉が国際的にも用いられる現代。日本には,一見ゆるいとも見られがちな可愛らしさを尊び,高い技術を駆使して表現してきた歴史があります。お雛様をはじめとする日本の人形を通じて,この世界的にも稀有な美意識を楽しく感じていただけければ幸いです。
※作品は全て東京国立博物館蔵
特集「おひなさまと日本の人形」
東京国立博物館本館14室 2019年2月5日(火)~3月17日(日)
東京国立博物館
(住所)〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9
- 問合せ
- 03-5777-8600(ハローダイヤル)
- 交通
- JR上野駅公園口・鶯谷駅南口から徒歩10分,東京メトロ上野駅・根津駅,京成電鉄京成上野駅から徒歩15分
- 開館時間
- 火曜日~木曜日 9:30~17:00
毎週金・土曜日は21:00まで
※入場は閉館の30分前まで - 休館日
- 毎週月曜日(祝日・休日に当たる場合は開館,翌平日休館)
- 観覧料
-
一般 620円,大学生 410円
※高校生以下,及び18歳未満と満70歳以上は無料。入館の際に年齢のわかるものを御提示ください。
※障がい者とその介護者1名は無料。入館の際に障がい者手帳などを御提示ください。
※子供(高校生以下及び満18歳未満)と一緒に来館した入館者(子供1名につき同伴者2名まで)は100円割引
※特別展は別料金 - ホームページ
- https://www.tnm.jp/