2019年11月22日
飛鳥 ―自然と人と―
飛鳥資料館 主任研究員 西田紀子
美しい農村風景が広がる飛鳥。1400年もの昔,この地は日本の都となり,政治や文化の中心地として栄えました。この地の自然に注目すると,その後の日本の都―例えば,奈良や京都とは,あきらかに異なる特徴があります。飛鳥では山地と丘陵地が間近に迫り,平坦地は狭く,中心部を横切るように川が流れています。このように,山との距離感が近い飛鳥では,木々が茂る森,谷から採れる石,盆地を流れる川などが,人々にとって身近な存在でした。森の木を切り出し,石を採り,川の水と向き合いながら,飛鳥の人々は生活してきたのです。今回の特別展では,このような飛鳥の自然と人々のかかわりを,貴重な史料や地域の人々からの聞き取り,そして様々な写真を通して紹介しています。

福井清康 甘樫丘から真神ケ原を望む
会場には,飛鳥の地形を実感できる1/1000模型を展示しました。会場設計を担当した建築設計事務所suep.が製作した模型では,飛鳥の高低差のある地形や,蛇行する川,山に広がる森などの自然の姿をみることができます。模型の背景には,飛鳥資料館写真コンテスト受賞作や,昭和期の古写真,今回の展示に併せて撮影した写真なども展示しています。模型と写真を合わせてみることで,飛鳥の多様な魅力や,人々が自然に手を入れてきた歴史がみえてきます。

飛鳥時代につくられた木製品や石材,飛鳥時代の葉っぱや種などの実物資料も展示します。特におすすめの展示品は,定林寺の石造の露盤石です。露盤とは,塔の屋根の上にのせる相輪を支える台ですが,定林寺の露盤石は一辺が135センチほどもある竜山石製で,とても大きくて重いものです。飛鳥時代の石材加工技術や建築技術の高さを実感できます。

定林寺の石造露盤石
また,近年,飛鳥資料館が調査した,明治期の地籍図も紹介します。明日香村尾曽の地籍図をみると,森が「用材林」と「雑木林」とわけて記載されています。用材林にはスギ・ヒノキなどの針葉樹,雑木林にはクヌギやコナラなどの広葉樹が生えていたそうです。現在では,尾曽をはじめとする飛鳥の山間部の森は9割近くがスギ・ヒノキの針葉樹林となっていますが,明治期の地図では,民家の近くの森の多くは広葉樹林だったことがわかります。人が手を入れることで,森の姿も変化してきているのです。
さらに,藤原宮下層の運河から出土した飛鳥時代の植物片も展示します。これら飛鳥時代の植物の葉っぱや種,花粉などを分析・調査した結果,当時の飛鳥地方に広がっていた,人が手を入れた広葉樹の森の姿がみえてきました。
飛鳥時代から現代まで,自然と関わりながら飛鳥の人々が生活してきた歴史を,会場でお楽しみください。

高市郡尾曽村実測全図(明治22年)

用材林を緑色,雑木林を茶色で色分けして表示したもの
飛鳥資料館
(住所)〒634-0102 高市郡明日香村奥山601
- 問合せ
- 0744-54-3561
- 交通
- 近鉄橿原神宮前駅又は飛鳥駅から「明日香周遊バス(赤かめ)」で明日香奥山・飛鳥資料館西下車。
JR・近鉄桜井駅から奈良交通(36系統:明日香奥山・飛鳥資料館西行)バスで飛鳥資料館下車。 - 開館時間
- 9:00~16:30(入場は閉館30分前まで)
- 休館日
- 毎週月曜日,ただし11/4は開館し,11/5は休館
- 観覧料
- 一般270円/大学生130円/高校生及び18歳未満,65歳以上は無料
- ホームページ
- https://www.nabunken.go.jp/asuka/