2020年3月19日
東京文化財研究所の写真データベースとその変遷
東京文化財研究所文化財情報資料部文化財情報研究室長 二神葉子
独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所(東文研)は,美術研究所として昭和5年(1930)に設立されて以来,書籍や展覧会カタログなどの文献,調査を行ったときのメモ,分析データなど,文化財に関する多様な情報を集めてきました。文化財の形や質感,色などを記録した写真も,そのような情報のひとつです。
以前は,光に反応する薬剤を塗ったガラス板やフィルムに記録した画像を,印画紙に焼き付けて写真にしました。写真は厚紙のカードに貼り付け,カードの裏側には写っている文化財の名称,撮影場所,撮影者などの文字情報を通し番号とともに記入します。このようなカードを写真1枚ごとに作り,引き出しに入れて保管しました。これはアナログ時代のデータベースといえますが,写真を探すのに1枚ずつカードを見なければならず,時間がかかりました。

写真カード(カンボジア・バイヨン寺院跡)

写真カードを収納した引き出し
情報技術の進歩によって,画像の記録媒体がメモリーカードなどに変わり,データベースもパソコンで作るようになりました。パソコンで作るデータベースにも,紙のカードのデータベースと似たところがあります。1枚のカードが1つの画面に変わっても,文字情報と写真が表示されるのは同じです。しかし,紙のカードとは異なり,キーワードを入力すると,すぐに目的の写真を探し出すことができます。

「尾高鮮之助調査撮影記録」のデータ
これは,美術研究所の職員だった尾高鮮之助が1931年に白黒フィルムで撮影した,アユタヤ遺跡(タイ)にあるワット・プラ・シー・サンペットという寺院跡の写真のデータです。私たちは,尾高鮮之助が東南アジアや南アジアを中心に各地で撮影した1900点余りの写真をデジタル化し,データを作成して「尾高鮮之助調査撮影記録」としてまとめ,ウェブ上で検索できるようにしました。ウェブサイトでは,地名を手掛かりに地図をリンクして撮影地を示しています。その後,アユタヤ遺跡は世界遺産一覧表に記載され,寺院跡も整備されました。古写真は,失われたり修理されたりして状況が変わる前の文化財の様子を記録した貴重な資料です。データベース化により,貴重な古写真を利用しやすくなりました。

ワット・プラ・シー・サンペット(2011年撮影)
東文研ではこのほか,西アジアが中心の「和田新調査撮影記録」など,古写真のデータベースを公開しています。これらは90年前の写真とは思えないほど鮮明で,丁寧に撮影されていました。文化財やその保護に関する研究のため,私たちは現在も写真による文化財の記録を行うとともに,写真データベースの改善を重ねています。
独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所
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