2021年5月26日
X線CTスキャン装置を用いた仏像調査
奈良国立博物館主任研究員 山口隆介
先月27日,奈良国立博物館で聖徳太子1400年遠忌記念 特別展「聖徳太子と法隆寺」が開幕しました。飛鳥時代以来の貴重な文化財を通じて,聖徳太子と太子信仰の世界に迫る展覧会で,法隆寺金堂東の間の本尊薬師如来像や聖霊院の秘仏本尊の聖徳太子像をはじめ,わが国を代表する仏像が一堂に会しています。
聖徳太子1400年遠忌記念 特別展「聖徳太子と法隆寺」会場風景
当館では展覧会の事前調査で得られた成果をいち早く来館者に伝えるよう努めていますが,今回もX線CTスキャン装置を用いた仏像調査で特筆すべき発見がありました。医療の現場でも活用されているX線CTは,従来のX線透過撮影に比べると,仏像の木取りや木寄せの方法を詳しく知ることができるのみならず,虫食いの進行度合いや修理の履歴などの保存状態を把握する上でも有効です。さらに像内納入品についても形状や納入状況を具体的に知ることが可能となりました。
出陳品のひとつで,聖徳太子が住まいした葦垣宮(あしがきのみや)の旧跡と伝わる奈良・成福寺(じょうふくじ)の聖徳太子立像は,16歳の太子が父・用明天皇の病気平癒を願い,柄香炉(えごうろ)を手に祈りを捧げる姿とされ,「孝養像(きょうようぞう)」と呼ばれます。若き太子のりりしい姿を巧みな彫技で捉えた優品で,秀麗な顔立ちは数ある孝養像のなかでもひときわ精彩を放っています。
聖徳太子立像 奈良・成福寺蔵
調査の結果,この像は内部の胸のあたりに棚を造り,小型の木造菩薩半跏像(像高約6.5㎝)や紙に包んだ大小16点の鉱物質の品を納入していることが判明しました。菩薩半跏像は宝冠をかぶり,右手のひらを内側に向けて頰に近づけ,左手先を足上に置き,左足を垂下して岩座に腰かけています。こうした詳細はCT調査でなければ知り得なかったことで,科学技術が文化財調査で威力を発揮した好例です。菩薩半跏像の姿は袖付きの衣を着ける点も含め,平安後期成立の『別尊雑記(べっそんざっき)』に収録される「四天王寺救世(くせ)観音像」におおむね一致しますが,台座を榻座(とうざ)でなく岩座とする点は二臂(ひ)の如意輪観音と共通します。聖徳太子を観音と同一視する信仰は古くからありましたが,菩薩半跏像は四天王寺本尊に対する信仰と,そこから派生して平安後期以降に広まった太子を如意輪観音の化身とする信仰とが重ね合わせられた姿と考えることができます。紙に包まれた16点の鉱物質のものは,舎利に擬(なぞら)えた品と推測されます。像内に由緒ある霊像の模像と舎利を納入することで,像を生身(しょうじん),すなわち生きた存在にすることを意図したのでしょう。
聖徳太子立像 像内納入品
菩薩半跏像(像内納入品のうち)
成福寺像は当館での展示終了後,巡回先の東京国立博物館へと向かいますが,今回は像を担架には寝かせず,立たせた状態で梱包し,輸送することにしました。そうすることで像内の納入品同士が接触するのを避け,損傷を防ぐことができると判断したのです。CT調査は学術的な知見が得られるだけでなく,仏像をより安全に輸送するためにも有益であることがおわかりいただけるでしょう。本展覧会では,日本の仏教美術の粋ともいうべき法隆寺の名品とともに,こうした最新の調査成果にもご注目ください。
奈良国立博物館
(住所)〒630-8213 奈良県奈良市登大路町50番地
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※状況により開館時間を変更することがありますので,最新の開館時間は奈良国立博物館公式ホームページで御確認ください - 休館日
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毎週月曜日(休日の場合はその翌日,連休の場合は最終日の翌日)
12月28日~1月1日 - 開催期間
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4月27日(火)~6月20日(日)
前期:4月27日(火)~5月23日(日)
後期:5月25日(火)~6月20日(日) - 休館日
- 月曜日(ただし,5月3日は開館)
- 開館時間
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午前9時30分~午後5時(土曜日は午後7時まで)
※入館は各閉館の30分前まで - 開催場所
- 奈良国立博物館 東・西新館
- 観覧料
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(前売日時指定券) 一般:1,800円,高大生:1,200円,小中生:300円
(当日券) 一般:2,000円,高大生:1,400円,小中生:500円
※本展は,新型コロナウイルス感染症の感染予防・拡大防止のため,事前予約<優先>制を導入します。 - ホームページ
- 奈良国立博物館ウェブサイト(https://www.narahaku.go.jp)
聖徳太子1400年遠忌記念 特別展「聖徳太子と法隆寺」