2021年8月27日
奈良を測る ―森蘊の庭園研究と作庭―
奈良文化財研究所 文化遺産部 主任研究員 高橋知奈津
平城宮跡資料館では、夏期企画展として「奈良を測る―森蘊の庭園研究と作庭―」を開催しています。
森蘊(もり おさむ)氏(1905-1988)は、日本庭園史の研究者・作庭家で、私ども奈良文化財研究所の初代・建造物研究室長を務めました。奈良の寺社境内や、全国各地の庭園の地形測量をおこない、地形を読み解くことで過去の姿を復元的に考察する手法を構築し、多数の研究論文を発表しています。奈良文化財研究所を退職後は、自身の右腕であった村岡正氏とともに、京都市に庭園文化研究所を設立、文化財となった庭園の保存・修復に尽力しました。
チラシ表面
私たち、文化財庭園の保存活用にかかわる後輩は、森氏のことを親しみと尊敬をこめて森先生と呼んでいます。森先生は、大学時代より現存例の少ない平安・鎌倉時代の庭園の研究を志し、従来の文献研究にくわえて、遺跡現地の地形を測量して図面を作成し、かつての庭園空間を考察する際の基礎としました。
森蘊愛用の測量機材
測量図を作成して遺跡の現況を把握することは、遺跡の保護をはかる上で欠かせない、最初の一歩です。現在の遺跡等の調査の現場では、写真やレーザーを用いた高度な測量技術により、非常に精度の高い3次元的な情報を有する図面が作成され、活用されています。しかし、森先生が奈良文化財研究所に着任したころは、遺構の平面的な形を示すだけのものが多く、等高線も模式的であったといいます。そのような中で、森先生は50㎝や1m毎に等高線の入った図面を作成し、これに海抜標高値をあたえ、空間を立体的に把握することのできる図面を作成しました。
東大寺旧境内地形実測図(1959年実測)
大乗院庭園遺跡実測図(1956年実測)
また、森先生は「私の庭園史研究は、歴史のための歴史研究であるより、これからの庭園意匠の在り方を考える参考資料の収集と整理」のためにある、と述べており、調査研究の経験を発想の源とした作庭活動を多数おこなっています。特に、平安時代末期に成立したとみられる作庭技術書『作庭記』に示された作庭思想を「『作庭記』の伝統」と呼び、現代の庭園として繰り返し形にしています。
唐招提寺客殿庭園計画図(1956年)
本企画展示では、庭園史研究者として、また作庭家としての森先生の奈良における業績を示す図面や写真資料の数々を初公開します。味わい深い筆致の彩色のスケッチも見どころの一つです。
うちわ絵下絵(1958年、東大寺龍蔵院庭園)
文化財庭園の継承に尽力した先人への敬意を表しつつ、デジタルではない図面の魅力をご堪能下さい。
独立行政法人国立文化財機構 奈良文化財研究所 平城宮跡資料館
(住所)〒630-8577 奈良市佐紀町
- 問合せ
- 0742-30-6753
- 交通
- 近鉄大和西大寺駅北口(東へ徒歩10分)、平城宮跡資料館北側駐車場(無料)
- 開館時間
- 9:00~16:30(入館は16:00まで)
- 休館日
- 毎週月曜日(月曜日が休日の場合は、翌平日)、年末年始(12月29日~1月3日)
- 観覧料
- 入館無料
- ホームページ
- https://www.nabunken.go.jp/heijo/museum/