2022年3月25日
和辻哲郎が見た聖林寺十一面観音
奈良国立博物館 美術室長 岩井 共二
2022年2月5日から3月27日まで、奈良国立博物館東新館で「国宝 聖林寺十一面観音─三輪山信仰のみほとけ」が開催されました。この展覧会は、奈良時代彫刻の傑作として名高い、奈良県桜井市の聖林寺の国宝・十一面観音菩薩立像を中心に、かつてこの像が所在した、桜井市の大神神社の神宮寺であった大御輪寺(明治元年(1868)に廃寺)に伝来した仏像が一堂に会する展覧会です。そして、この像が伝来した大神神社のご神体である三輪山の信仰の歴史を、古代からの遺品とともに紹介するものです。展覧会の見どころは、なんと言っても、奈良国立博物館では特別展「天平」以来24年ぶりに公開される、国宝・十一面観音菩薩立像です。かつて、哲学者の和辻哲郎(1889~1960)が「そこには神々しい威厳と、人間のものならぬ美しさとが現わされている」(『古寺巡礼』)と評し、多くの人々を魅了し続けてきました。
ところで和辻哲郎の『古寺巡礼』(大正8年(1919)初版)を読まれるとわかりますが、和辻は、聖林寺十一面観音を、奈良博(当時は奈良帝室博物館)で、見ています。聖林寺十一面観音は、大正4~5年(1915~1916)にかけて修理が行われており、大正7年(1918)発行のパンフレット『奈良帝室博物館彫刻一覧』第7版に、出陳(所蔵者に依頼して借用し展示すること)品としてリストに載っております。このパンフレットの大正5年(1916)発行の第6版、大正8年(1919)発行の第8版には、聖林寺の像が載っておりませんので、おそらく、修理が終わった大正5~7年(1916~1918)の間に、修理後のお披露目として、奈良帝室博物館本館(現:なら仏像館)に展示されていたようです。

奈良国立博物館第一室(現:なら仏像館第6室)の様子(撮影年不詳)
当時は、上の写真に見えるような、大きな展示ケースがあって、和辻はこのケースの中に展示された聖林寺十一面観音を見たようですが、当時は十分な照明もなく、展示ケースの中を見上げるような感じで決して快適な展示環境ではなかったと推測されます。それから100年以上が経ちました。今回、聖林寺十一面観音は、和辻が見た時とは違い、広い空間に、適度な高さで360度あらゆる角度から鑑賞できるように展示をしました。聖林寺十一面観音は、和辻が見た時よりも、もっと素晴らしく見えたはずだと自負しております。なお、十一面観音像は、この夏、新しくなった聖林寺の観音堂におもどりになります。もちろん和辻が見た時以上の感動を与えてくれる礼拝空間となっているはずです。ぜひ、聖林寺にもお越しいただき、博物館で見るのとは違う十一面観音像の魅力にも触れていただければ幸いです。

国宝 聖林寺十一面観音菩薩立像(奈良・聖林寺)
奈良国立博物館
(住所)〒630-8213
奈良県奈良市登大路町50番地
- 問合せ
- 050-5542-8600(ハローダイヤル)
- 交通
- 近鉄奈良駅下車東へ徒歩約15分
- またはJR奈良駅・近鉄奈良駅から奈良交通「市内循環外回り」バス「氷室神社・国立博物館」下車すぐ
- 開館時間
- 9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで)
- ※最新情報は当館のウェブサイトをご確認ください。
- 休館日
- 毎週月曜日(休日の場合はその翌日。連休の場合は終了後の翌日)
- 12月28日~1月1日
特別展「国宝聖林寺十一面観音―三輪山信仰のみほとけ」
- 開催期間
- 2月5日(土)~3月27日(日)
- 休館日
- 2月7日(月)・21日(月)・28日(月)、3月22日(火)
- 開催時間
- 9:30~17:00(毎週土曜日は19:00まで)
- ※入館はいずれも閉館の30分前まで
- 開催場所
- 奈良国立博物館 東新館
- 観覧料
- (前売)一般\1,200、高大生\800、小中生\300
- (当日)一般\1,400、高大生\1,000、小中生\500
- ※障害者手帳またはミライロID(スマートフォン向け障害者手帳アプリ)をお持ちの方(介護者1名を含む)、奈良博プレミアムカード会員の方(1回目及び2回目の観覧)は無料(要証明)。
- ※奈良国立博物館キャンパスメンバーズ会員(学生)の方は400円、同(教職員)の方は1,300円で当日券をお求めいただけます(要証明)。
- ※館内が混雑した場合は、入場を制限する場合があります。
- ※本展の観覧券で、同日に限り、特別陳列「お水取り」、特集展示「新たに修理された文化財」(3月1日(火)から)、名品展(なら仏像館・青銅器館)もご覧になれます。
- ホームページ
- 奈良国立博物館ウェブサイト