2022年7月25日
中将姫と當麻曼荼羅
奈良国立博物館 学芸部 主任研究員 北澤菜月
奈良県の葛城市當麻に當麻寺という寺院があります。この當麻寺の本尊である綴織當麻曼荼羅(国宝)は、中央に極楽浄土、周囲に『観無量寿経』というお経の内容をコマ割りで描き、極楽浄土への往生を望む人々にとって重要な内容を表しています。綴織というのはタペストリーのことで、4メートル四方と巨大ながら、織物で絵画的な図柄を表すたいへん精緻なものです。
この曼荼羅については、何が表されているかとともに、どのように作られたということが広く知られていました。「中将姫」と呼ばれる極楽往生を望んだ奈良時代の貴族の娘が関わって作られたという伝承は、鎌倉時代からにわかに知られるようになり、100年ほど前までは有名なお話で、能や文楽、歌舞伎の題材にもなっています。

中将姫像(奈良・當麻寺中之坊)

重要文化財 當麻寺縁起 下巻 部分(奈良・當麻寺)
奈良時代、貴族の娘として生まれた中将姫は、美しく清らかな心をもつ女性でした。しかし実母の死後、継母に疎まれ山中で殺害されそうになります。純粋な中将姫は助けられ山中で育てられましたが、偶然父と再会し都に戻ります。その後中将姫は當麻寺で出家し、極楽浄土への思いを募らせていると、阿弥陀如来と観音菩薩の化身が現れ、蓮糸で綴織當麻曼荼羅を織りあげて中将姫に極楽の姿を示しました。そして中将姫は29歳のとき阿弥陀の来迎を受け無事極楽へ往生します。
當麻曼荼羅は、極楽浄土を表した本尊であり、そして中将姫の極楽往生を象徴する存在でもあります。そうして長らく信仰の対象となり、おなじ図様を絵画として写したものが全国に多数伝えられています。
7月16日から奈良国立博物館で開催中の特別展「中将姫と當麻曼荼羅」では、1000年以上にわたるその信仰の歴史をご紹介します。中心には江戸時代、霊元天皇の宸筆を得て完成した貞享本當麻曼荼羅(重要文化財、當麻寺蔵)を展示します。この貞享本は近年本格修理を終え、修理後はじめての展示となります。

重要文化財 當麻曼荼羅(貞享本)(奈良・當麻寺)
長い時間を経て現在に伝えられる文化財の背景には、それぞれの時代を生きた人々が価値を見出し、大切にしてきた歴史があります。本展はそうした歴史を、中将姫と當麻曼荼羅を通じ感じていただく機会ともなるのではないかと思っています。
奈良国立博物館
(住所)〒630-8213
奈良県奈良市登大路町50番地
- 問合せ
- 050-5542-8600(ハローダイヤル)
- 交通
- 近鉄奈良駅下車東へ徒歩約15分
- またはJR奈良駅・近鉄奈良駅から奈良交通「市内循環外回り」バス「氷室神社・国立博物館」下車すぐ
- 開館時間
- 9:30~17:00(土曜日は20:00まで)
- 展覧会・曜日によっては延長あり
- ※入館はいずれも閉館30分前まで
- ※最新情報は奈良国立博物館ウェブサイトをご確認ください
- 休館日
- 毎週月曜日(休日の場合はその翌日。連休の場合は終了後の翌日)
- 12月28日~1月1日
貞享本當麻曼荼羅修理完成記念 特別展
「中将姫と當麻曼荼羅―祈りが紡ぐ物語―」
- 開催期間
- 7月16日(土)~8月28日(日)
- 休館日
- 毎週月曜日(ただし7月18日[月・祝]・8月15日[月]は開館)、7月19日(火)
- 開催時間
- 9時30分~18時(毎週土曜日は19時まで)
- ※入館は閉館の30分前まで。
- ※名品展(なら仏像館・青銅器館)とは休館日・開館時間が異なります。
- 開催場所
- 奈良国立博物館 西新館
- 観覧料
- (当日)一般¥1,600、高大生¥1,000、小中生¥500
- (前売)一般¥1,400、高大生¥800、小中生¥300
- ※未就学児および障害者手帳またはミライロID(スマートフォン向け障害者手帳アプリ)をお持ちの方(介護者1名含む)は無料です。
- ※本展の観覧券で、同時開催のわくわくびじゅつギャラリー(東新館)、名品展(なら仏像館・青銅器館)もご覧になれます。
- ※奈良国立博物館キャンパスメンバーズ会員(学生)の方は400円、同(教職員)の方は1,500円で当日券をお求めいただけます。観覧券売場にて、学生証または職員証をご提示ください。
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