2022年8月15日
歴史を歩む道~大阪・河内長野と観心寺・金剛寺~
京都国立博物館 美術室研究員 井並林太郎
マップ(地図)のアプリで「経路検索」をすると、ある地点からある地点への移動にかかる、車、公共交通機関、そして徒歩での所要時間が一瞬で示されます。この徒歩ですが、長距離の検索をしたときに何十時間という数字がでてきて笑ってしまったことがある方も多いのではないでしょうか。しかし、車も鉄道もなかった時代には、人々は何十時間どころか何日間もの行程を自らの足で歩いたのです。
大名の参勤交代や飛脚など、必要に迫られた大移動もありますが、ここで話題にしたいのはお寺や神社への参詣(お参り)です。伊勢神宮や成田山、あるいは「遠くとも一度は参れ」とうたわれた善光寺など、江戸時代には庶民が社寺へ熱心に参詣をしました。純粋な信仰心というよりは、現代の観光に近い行楽・娯楽の動機も多分にあったようです。人々は街道を通ってその旅を楽しみました。
代表的な参詣として挙げられるのが、高野詣(こうやもうで)です。弘法大師空海が金剛峯寺を開いた高野山(今の和歌山県)へのお参りです。高野山は真言密教の聖地で、平安時代から藤原道長や鳥羽天皇など多くの貴族が参詣しました。
江戸時代の高野詣で使用された街道を「高野街道」と呼びます。京や大坂から出発する高野街道は複数のルートがありましたが、山間部に入る直前でそれらが合流します。この合流地点としてにぎわったのが、現在大阪府南部にある河内長野市の中心部でした。高野詣がこの地域を経由しておこなわれるようになったのは古く、平安時代後期のこと。今でも参詣道が町中に残っています。
この地には、観心寺と天野山金剛寺というふたつの大きな真言宗寺院があります。

観心寺金堂

天野山金剛寺金堂
どちらのお寺も奈良時代の開創と伝えますが、はっきりとした記録が残るのは平安時代以降です。交通の要地に建つため、京都と高野山双方の影響を受けながら長い歴史を重ねてきました。それゆえ、各時代の有力者がかかわったと考えられる仏教美術――麗しい仏像、鮮やかな絵画、豊かな経典、黄金の法具など――が数多く伝えられているのです。また、朝廷が南北に分かれた14世紀の南北朝時代には、後醍醐天皇や武将・楠木正成など南朝方とも関わりを深めました。このことによって、天皇や楠木氏にかかわる文化財も多数伝えられているのです。

重要文化財 伝宝生如来坐像 大阪・観心寺蔵(画像提供:公益財団法人美術院
撮影:金井杜道)(通期展示)

国宝 日月四季山水図屛風(右隻) 大阪・天野山金剛寺蔵(通期展示)

重要文化財 腹巻 大阪・観心寺蔵(通期展示)
京都国立博物館では、4年間かけて両寺で文化財の調査をおこないました。何日もかけて、蔵に納められた作品を運び出し、積年の汚れを落として、調書をとり写真を撮影します。京都国立博物館での9月11日(日)までの特別展では、調査の成果を含め、両寺の歴史を物語る文化財を公開しています。
美術館や博物館できれいに展示されている古美術品の中には、もともと寺の薄暗い蔵の中で何百年も大切に伝えられてきたものがあります。そのことは現代の多くの人にとっては、長距離の徒歩のように想像しにくいかもしれません。しかし、中世の雰囲気を残す観心寺と金剛寺の文化財をご覧いただくことで、かつての河内長野の道を歩んだ昔の人々へ想像を膨らませていただけるのではないかと思います。
京都国立博物館
(住所)〒605-0931
京都市東山区茶屋町527
- 問合せ
- 075-525-2473(テレホンサービス)
- 交通
- JR京都駅下車、京都駅前D2のりばから市バス各系統にて博物館三十三間堂前下車、徒歩すぐ
- 開館時間
- 9:00~17:30(金・土曜日は20:00まで開館)※入館は閉館30分前まで
- 休館日
- 月曜日
- 観覧料
- 一般¥1,200 大学生¥600 高校生¥300
- ※前売券・団体券はございません。
- ※中学生以下、障害者手帳等(*)をご提示の方とその介護者1名は、観覧料が無料になります(要証明)。
- (*)身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、戦傷病者手帳、被爆者健康手帳
- ※大学生・高校生の方は、学生証等をご提示ください。
- ※キャンパスメンバーズ(教職員を含む)は、学生証または教職員証をご提示いただくと、各種当日料金より400円引き(一般800円、大学生200円、高校生無料)となります。
