2022年12月23日
博物館に初もうで 兎にも角にもうさぎ年
東京国立博物館 調査研究課東洋室 研究員 六人部克典
平成15年(2003)から続く、東京国立博物館の新春のイベント「博物館に初もうで」は、令和5年(2023)で20回目を数えます。その年の干支にちなんだ作品とともに新年を迎えることも恒例となりました。令和5年は「癸卯」の卯年、うさぎが主役です。
サブタイトルに「兎にも角にもうさぎ年」と付けました本展では、「兎に角うさぎ」「月のうさぎ」「波に乗るうさぎ」「うさぎはどこだ」「うさぎと人と」の5つのテーマから、東アジアの造形作品を通して、人が豊かな関係を紡いできたうさぎの魅力に迫ります。ここでは、展示作品から当方イチオシのうさぎ達をご紹介します。
こちらは、径46.0cm、高さ5.4cmになる幕末の伊万里で焼かれた大皿です。

染付水葵に兎図大皿(そめつけみずあおいにうさぎずおおざら)
伊万里 江戸時代・19世紀 平野耕輔氏寄贈 東京国立博物館蔵
どこかお話をしているような愛嬌たっぷりの2羽の兎。藍色の地に、ミズアオイが群生する水辺で遊ぶ兎たちが、白抜きで描かれています。レリーフ状に盛り上がった兎は、どこかモフモフ感があり、愛くるしさは倍増です。
ちなみに、うさぎは野兎と飼兎の2種に大別されます。現在ペットとして主流なのが飼兎。室町時代の終わりにヨーロッパから南蛮貿易を通じて日本に伝えられたとされます。一方の野兎は、もともとその土地に生息していたうさぎを指します。
そして、うさぎと言えば、月に住んでお餅をつくイメージですが、かつては波に乗るうさぎのイメージが流布して、江戸時代を中心にその姿が好んで造形化されました。
こちらは、江戸屋敷に住む武家の女性が、火事に備えて整えた装束です。


火事装束 紺麻地波兎雨龍模様(かじしょうぞく こんあさじなみうさぎあまりょうもよう)
江戸時代・19世紀 アンリー夫人寄贈 東京国立博物館蔵
昇天して雨を起こすと言われる雨龍と、高くしぶきを上げる白波の上には、赤い兎が正面を向いて構えています。水に関係のある文様をあしらい、火から身を守る縁起を担いだのです。
波に乗るうさぎのイメージは、謡曲『竹生島』の一節「月 海上に浮かんでは、兎も波を走るか」がもとになったと言われます。つまり、月のうさぎから、波に乗るうさぎが派生し、更には火事を防ぐ「火伏せ」の象徴ともなったようです。
一方、著名な「鳥獣戯画」のように、うさぎはときに擬人化されて描かれることもありました。それだけ、人はうさぎに親しみを覚えていたのかもしれません。
こちらは、酉年にあたる明治6年(1873)の新年の一コマを描いた錦絵です。

吉例 兎の年礼噺(きちれい うのねんれいばなし)
蓮池堂画 明治5年(1872) 東京国立博物館蔵
擬人化された洋装の兎が、和装の鶏を訪ねて、新年の挨拶に来た場面。キザな兎は、多忙さゆえに挨拶が遅れたことを自慢気に話します。これは当時の兎ブームを伝えるもので、明治初頭には兎の愛玩が流行し、取引が規制されるほどに価格が高騰しました。
この他にも様々な仕草や形のうさぎ達が、皆さまのご来館を、耳を長くしてお待ちしております。本展を通して、うさぎ達とご一緒にハッピーなニューイヤーをお迎えいただけますと幸いです。
東京国立博物館
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- 年末年始(2022年12月26日(月)~2023年1月1日(日・祝))、2023年2月7日(火)。その他、臨時休館・臨時開館あり。
- 観覧料
- 一般1,000円、大学生500円
- ※有料イベント等は別料金。詳細は当館ウェブサイトをご参照ください。
- ※障がい者とその介護者各1名は無料です。入館の際に障がい者手帳等をご提示ください。
- ※高校生以下および満18歳未満,満70歳以上の方は,総合文化展について無料です。入館の際に年齢のわかるもの(生徒手帳,健康保険証,運転免許証など)をご提示ください。
