2023年2月24日
特別展「加耶【かや】」
九州国立博物館 学芸部文化財課 課長 白井 克也【しらい かつや】
3~6世紀ごろ、朝鮮半島南部に「加耶」と呼ばれる小国群がありました。東の新羅、西の百済、北の高句麗という強国に囲まれていましたが、それらの国ぐにや、海を渡った倭(日本)や南西諸島、中国などとも交流しつつ独立を保ちました。
加耶の繁栄は、豊富な鉄のおかげでした。弁韓の時代から鉄の生産と交易によって成長し、3世紀後半には慶尚南道金海市に、「金官加耶【きんかんかや】」が登場しました。このほか「阿羅加耶【あらかや】」「大加耶【だいかや】」「小加耶【しょうかや】」など加耶の諸国も成長しました。鉄による繁栄を象徴するのが有刺利器です。羽子板のような鉄板の周囲に装飾がついた形は、鉄鋌と呼ばれる鉄の延べ板を加工したものです。鉄鋌は鉄の材料であるとともに、貨幣のような使い方をしたとも考えられており、王の死に際しては大量に王陵に納め、その権威を示しました。有刺利器もまた、鉄の国の誇りを表しています。加耶では豊富な鉄を交易のほか武器や武具(よろいやかぶと)にも利用し、周囲の強国に対抗しました。
金官加耶は5世紀初めごろ高句麗の攻撃を受けて衰退し、代わって台頭したのが、慶尚北道高霊郡を中心とした大加耶です。金銅の冠が王の権威を象徴しています。冠が出土した王陵には、新羅の土器や倭の甲冑なども納められており、周辺の国ぐにとの外交交渉も盛んでした。479年には中国の南斉王朝に単独で使者を派遣するほどでした。大加耶は新羅を通じて地中海地域のガラスを、百済を通じて南朝の青磁を、それぞれ輸入しました。
しかし、6世紀には百済、新羅に圧迫され、532年に金官加耶が新羅に降伏、562年には大加耶も新羅軍に敗れ、加耶は滅亡しました。

有刺利器 咸安道項里(文)10号墳(阿羅加耶) 4世紀末~5世紀前半 韓国国立金海博物館蔵

《韓国宝物》 金銅冠 高霊池山洞32号墳(大加耶) 韓国国立大邱博物館蔵(画像提供啓明大学校博物館)
加耶と倭の交流を反映して、倭には加耶などの渡来人が訪れました。福岡県の朝倉古墳群では、倭人の首長のもと、渡来人と倭人が地域社会を共同で営んださまが知られています。日常的な交流の中で、鉄の加工、須恵器の生産、かまどによる調理方法など、新技術がもたらされました。大阪府四條畷市では、日本で唯一の仔馬形埴輪がみつかっていますが、このような埴輪の存在は、馬を子どもの段階から飼育して地域社会に貢献した人がいたことを示しています。渡来人による牧場経営のはじまりです。
加耶に関する大規模な展覧会が日本で開催されるのはほぼ30年ぶり。この機会に、加耶と倭の交流や、倭にやってきた渡来人が日本文化の形成に果たした役割を体感していただければと思います。

《四條畷市指定文化財》仔馬形埴輪 大阪府四條畷市・忍ヶ丘駅前遺跡 6世紀 四條畷市教育委員会蔵
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- 開館時間
- 午前9時30分~午後5時(入館は午後4時30分まで)
- 特別展期間中の金曜日・土曜日は午前9時30分~午後8時(入館は午後7時30分まで)
- ※状況により開館時間を変更することがありますので、最新の開館時間は九州国立博物館公式ホームページでご確認ください。
- 休館日
- 月曜日(月曜日が祝日・休日の場合は開館、翌日休館)、年末
九州国立博物館
- 開催期間
- 1月24日(火)~3月19日(日)
- 開催場所
- 九州国立博物館 3階 特別展示室
- 観覧料
- 一般1,700円、高大生1,000円、小中生600円
- ※高大生・小中生は学生証等の提示をお願いします。
- ※上記料金で九州国立博物館4階「文化交流展(平常展)」も御観覧いただけます。
- ※障がい者手帳等を御持参の方とその介護者1名は無料です。展示室入口にて障がい者手帳等(詳細についてはHP等を御確認ください)を御提示ください。
- ※キャンパスメンバーズの方は割引料金で御購入いただけます。券売所にて学生証、教職員証等を御提示ください。
