2023年9月25日
東福寺と画聖・明兆
京都国立博物館 列品管理室 研究員 森 道彦
京都駅からJR奈良線で1駅。東山連峰の南の山すそにひときわ巨大な屋根をいくつものぞかせる寺が、京都の誇る禅の名刹、東福寺です。鎌倉時代に中国に留学した高僧、円爾(聖一国師 1202~80)を迎えて開かれ、奈良の東大寺、興福寺のような大寺院となるよう、その1字ずつをとって名づけられました。現在は燃えるように美しい紅葉で全国にその名をとどろかせています。一方で古くから伽藍の見事さでも有名で、都の人々に俗に「東福寺の伽藍面」ともてはやされ、親しまれてきました。戦乱や災害が特に多かった都にあって、少なくともこの600年あまりは比較的被害をまぬがれてきた非常に稀有な大寺院で、中世にさかのぼる壮大な建築、そしてそれにふさわしい特大の彫刻や調度品、絵画や書の数々が伝わっています。東福寺の特徴の一つは、修行や外交、貿易で海をわたった関係者の多さです。鎌倉から室町時代にかけて、この寺には中国や朝鮮半島など大陸の最新の知識や品々がいち早くもたらされ、京都にあって広く海外へ扉を開き、国際的な雰囲気を漂わせていました。そうしたダイナミックな歴史をものがたる宝物が今も寺に無数に眠っていますが、世に紹介される機会が非常に少なく、歴史や美術の研究者からは秘められた恐るべき文化財の宝庫として長らく注目を集め続けてきました。
国宝 東福寺三門
南北朝から室町時代にかけて、東福寺は後に「画聖」とも呼ばれた禅僧、吉山明兆(1352~1431)を輩出します。寺では伽藍の清掃や飾りつけを行う殿司という役職につき、通称、兆殿司。儀式にかかせない巨大な壁画や仏画を数多く描き、最も大きな作品は縦24mにも及ぶ観音様の絵であったそうです。それは現在失われてしまいましたが、縦12mを越える巨大な「仏涅槃図」や縦3.5mの「白衣観音図」など、壮大なスケールの作品が今も残されています。600年も前の人物ながら彼の絵は大変色鮮やかで、ダイナミックさと軽やかさを兼ね備え、さらにどことなくユーモラス。雪舟など後進の画家たちの基礎ともなって、日本絵画の歴史において重要な役割を果たしました。破れた粗末な衣をまとい、仏画と禅一筋にいきた清貧の僧で、寺では今も大変尊ばれています。
重要文化財 白衣観音図 吉山明兆筆 京都・東福寺蔵
展示期間:2023年10月7日~11月5日
この秋、このような東福寺の全貌を紹介する初めての大展覧会「東福寺展」が京都国立博物館で開かれます。会場には巨大な彫刻や調度品、すばらしい書画、そして画聖・明兆の必見の代表作がずらりとならびます。美しい紅葉とあわせて、東福寺の魅力のすべてを感じていただければ幸いです。
十六羅漢図 京都・永明院蔵
展示期間:2023年11月7日~12月3日
京都国立博物館
(住所)〒605-0931 京都市東山区茶屋町527
- 問合せ
- 075-525-2473(テレホンサービス)
- 交通
- JR京都駅下車、京都駅前D2のりばから市バス各系統にて博物館三十三間堂前下車、徒歩すぐ
- 開館時間
- 9:00~17:30 ※入館は閉館30分前まで
- 休館日
- 毎週月曜日(ただし、10月9日(月・祝)は開館、翌10日(火)休館)
- 観覧料
- 一般¥1800 大学生¥1200 高校生¥700
※前売券・団体券については、展覧会公式サイト(https://tofukuji2023.jp/)をご覧ください。
※大学生・高校生の方は学生証をご提示ください。
※中学生以下、障害者手帳等(*)をご提示の方とその介護者1名は、観覧料が無料になります。
*身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、戦傷病者手帳、被爆者健康手帳、特定疾患医療受給者証、特定医療費(指定難病)受給者証、小児慢性特定疾病医療受給者証
※キャンパスメンバーズ(含教職員)は、学生証または教職員証をご提示いただくと、各種当日料金より500円引き(一般1,300円、大学生700円、高校生200円)となります(当日南門チケット売場のみ販売)。 - ホームページ
- https://www.kyohaku.go.jp/jp/exhibitions/special/tofukuji_2023/