2023年11月24日
秋期特別展「川原寺と祈りのかけら」
奈良文化財研究所 飛鳥資料館アソシエイトフェロー 濵村美緒
仏教文化が花開いた飛鳥時代、現在の明日香村大字川原に創建された川原寺(弘福寺)は、天皇の病気快復の祈願や追善供養をおこなう国の重要な寺院として栄えました。斉明天皇や天智天皇、天武天皇にゆかりのある寺院とされ、これまでにおこなわれた発掘調査では、南北約333mの広大な寺域や、2つの金堂を持つ独特な伽藍配置が明らかになっています。しかし、川原寺が建てられた理由や創建された時期などの詳しい記録は残っておらず、謎多き古代寺院としても知られています。
10月から飛鳥資料館で開催している特別展「川原寺と祈りのかけら」では、川原寺に隣接する川原寺裏山遺跡から出土した、仏像や堂内装飾の「かけら」にスポットを当てた展示をおこなっています。文字が刻まれた磚仏や動物をかたどった塑像など、大小さまざまな「かけら」に残る古代の繊細な造形や、美しい彩色の痕跡を間近でご覧いただけます。

川原寺裏山遺跡 出土品
(明日香村教育委員会所蔵 奈良文化財研究所撮影)
川原寺裏山遺跡は、9世紀中ごろに川原寺が火災に見舞われた際、焼け壊れた品々を寄せ集めて地中に納めた遺跡です。数千点を超える膨大な量の出土品には、粘土を型押しして焼成した磚仏や、水面の波文が描かれた緑釉磚、土や粘土を素材にしたバラエティ豊かな塑像など、川原寺の創建期の作とみられるものも多く含まれています。
これらの出土品は、遺跡から出土した考古資料であるとともに、7~8世紀ごろの美しい造形や彩色の表現を残す貴重な資料でもあります。

川原寺裏山遺跡出土 緑釉波文磚
(明日香村教育委員会所蔵 奈良文化財研究所撮影)

川原寺裏山遺跡出土 塑像片
(明日香村教育委員会所蔵 奈良文化財研究所撮影)
ところで、磚仏や塑像の「かけら」には、激しい火災の痕跡が残っています。特に塑像は、火災で焼きしめられたことで奇跡的に地中でもその形をとどめましたが、火災の熱で絵具が変色・退色し、本来の美しい色彩は失われてしまいました。
本展では、復元が難しいとされている焼損した塑像の彩色について、近年の復元研究とその成果の一部を紹介しています。科学的な分析と日本画の伝統的な手法を用いて描かれた彩色復元図を、復元の対象となった塑像と一緒に展示しました。ぜひ、復元図と実物の塑像に残る文様の痕跡を見比べながら、よみがえった古代の鮮やかな色彩や美しい文様をご覧いただければと思います。

川原寺跡(国指定史跡)
火災に遭い、地中に埋められながらも奇跡的に今に残る「祈りのかけら」をとおして、当時の人々の祈りのかたちや、川原寺が辿った歴史に思いを馳せていただければ幸いです。
奈良文化財研究所 飛鳥資料館
(住所)〒634-0102
奈良県高市郡明日香村奥山601
- 問合せ
- 0744-54-3561
- 交通
- 近鉄橿原神宮前駅・飛鳥駅から 明日香周遊バス(赤かめ)「明日香奥山・飛鳥資料館西」下車
- または近鉄・JR桜井駅から 奈良交通(明日香奥山・飛鳥資料館西行)バスで「飛鳥資料館」下車
- 開館時間
- 9:00~16:30(入場は16:00まで)
- 休館日
- 毎週月曜日
- 観覧料
- 一般350円、大学生200円、高校生および18歳未満、70歳以上は無料(年齢のわかるものが必要です)
障がい者の方とその介護者1名は無料(手帳のご提示が必要です)
特別展「川原寺と祈りのかけら」
- 開催期間
- 10月6日(金)~12月10日(日)
- 開催場所
- 飛鳥資料館 地階 特別展示室
- ホームページ
- https://www.nabunken.go.jp/asuka/kikaku/post-44.html