2024年1月29日
特別展「女帝のいのり-発掘された西大寺と西隆寺-」
奈良文化財研究所 企画調整部 研究員 小原俊行
西大寺は平城宮の西方に位置する大寺院で、聖武天皇の娘である称徳天皇による創建から1250年以上もの長きにわたり、法灯が守り伝えられてきました。しかし、創建時の壮大な伽藍の痕跡が、現在の住宅地の地下に広く眠っていることは、意外と知られていないようです。また、西大寺の東には尼寺である西隆寺が、同じく称徳天皇によって造営されましたが、現在、その姿を見ることはできません。 10月から開催している本展では、長年の発掘調査の成果から創建時の西大寺と西隆寺の姿に迫ります。

イスラム陶器(奈良市教育委員会所蔵)
称徳天皇は西大寺を造営する際、国外からの知識や技術を積極的に採用して、これまでにない寺院を造ろうとしました。西大寺の国際性をあらわした出土品として、イスラム陶器があります。これは、8世紀後半以前に現在のイラク南部で制作されたものと考えられています。海上交易路が発達した当時、海外貿易港のあった中国の揚州などから、平城京に運ばれたのでしょう。

西大寺食堂院の井戸
西大寺の僧侶の食事などを提供する食堂院の出土品からは、当時の寺院での食生活を知ることができます。特に、天平神護3年(767)頃につくられた巨大な井戸からは、多種多様な品々が出土しました。

製塩土器
井戸の出土品には、様々な食品の名前が登場する木簡のほか、製塩土器と呼ばれるものもあります。海水を煮詰めてできた粗塩を運ぶための容器ですが、形によって産地が異なります。各地から運ばれた塩を漬菜などの食品加工に使っていたと想像できます。

隅木蓋瓦
西隆寺からは、造営の様子がわかる資料が出土しました。特に興味深いのは、金堂院から出土した隅木蓋瓦※1です。軒平瓦※2としてつくられたものですが、焼いた後に後ろの部分を打ち欠いてV字状に加工し、隅木蓋瓦として転用されています。本来、隅木蓋は専用の形状につくられますが、このような転用品があるということは、工事の際にいわゆる「現場合わせ」のような、臨機応変な対応がとられたのかもしれません。
※1 木造建造物の軒先の隅の部分に設けられる部材(隅木)の先端を保護するための瓦製品。
※2 軒先などの屋根の縁を飾るために用いられた平瓦。
本展では、この他にも多くの資料を展示しています。「にしのおおでら」西大寺と、対をなした西隆寺の歴史に触れることで、称徳天皇の平和への祈りに思いを馳せていただけますと幸いです。
奈良文化財研究所 平城宮跡資料館
(住所)〒630-8577
奈良県奈良市佐紀町
- 問合せ
- 0742-30-6753(奈良文化財研究所連携推進課)平日9:00~17:00
- 交通
- 近鉄奈良線大和西大寺駅北口より東へ徒歩10分
- 開館時間
- 9:00~16:30(入館は閉館30分前まで)
- 休館日:毎週月曜日 (月曜日が祝日の場合は翌平日)、 年末年始
- 観覧料
- 無料
- ホームページ
- https://www.nabunken.go.jp/heijo/museum/
- X(旧Twitter)
-
平城宮跡資料館