2024年9月27日
飛鳥資料館 秋期特別展「水と暮らしの風景史―古地図と景観がひらく飛鳥」
奈良文化財研究所 飛鳥資料館 研究員 竹内祥一朗
たたなづく青垣の山々から飛鳥の盆地へと注ぐ渓流の水は、古代の庭園の噴水や漏刻台の水時計の施設にも使われてきました。奈良時代以降、飛鳥がしだいに農村へと姿を変えるなか、水は地域の人びとの暮らしや営みを支える財産として大切にされてきたのです。人びとは古代の水路を引き継ぎ、洪水の被害を乗り越えて田畑を拓きました。そして、ときには水不足に苦しみながらも、「日本の原風景」とも讃えられる田園の風景を育んできました。古代人の知恵に由来する水路、江戸時代から守られてきた用水の配分の工夫、水辺に臨んで繰り広げられる伝統行事など・・・。飛鳥の風景には、移り変わる古都の自然や社会と向き合い、水とともに歩んできた人びとの足跡が刻まれているのです。
この秋に飛鳥資料館で開催する特別展では、江戸時代から明治時代の古地図・古文書のほか、現地でおこなった文化的景観の調査成果などを中心として、水を活かして営まれてきた飛鳥の暮らしと風景の来歴・魅力を読み解きます。
飛鳥地域の各集落には、江戸時代の水争いに関わる古地図が数多く残されています。人口増加に伴って田畑を広げた江戸時代には、限られた用水をめぐって村どうしの水争いがたびたび起こりました。そうした争いの際に、双方の言い分を主張したり、調停の内容を記録したりするために地図が作製されました。明日香村小山大字に伝えられる、天和2年(1682)作製の地図はその代表例です。水争いに関係する用水路や堰を中心に、江戸時代の飛鳥を生き生きと描いています。

下八釣村・小山村百貫川水論立会絵図
明日香村小山大字所有
こうした水争いを通じ、さまざまな水の使用ルール(水利慣行)が定められました。そして、その多くが現在にも継承されています。藤原宮跡の南東に位置する「ながれ井手(堰)」は、用水路の分岐点にあたり、江戸時代には川下の村どうしが水の配分をめぐり争いました。奈良奉行所の裁決により、水の配分は7:3と定められ、江戸時代の地図にも「七分」、「三分」と表記されています。そして現在も、下の写真のように水が流れ落ちている部分の比率は7:3になっています。

江戸時代から水の配分が継承されるながれ井手
歴史の中で培われた水利慣行だけでなく、農家それぞれの工夫やならわしが飛鳥の風景を支えています。水を余すことなく配る田越灌漑、水路の深さや幅に応じて創意工夫された止め板、豊作を願って苗代田に供えられた草花、水路に設けられた洗い場など。

豊作を願って苗代田に供えられた草花

田植えの風景
本展をご覧いただき、水を活かしながら「日本の原風景」を培ってきた先人たちの歩みと、現在も飛鳥の田園風景を支えている水と暮らしの魅力に触れていただければ幸いです。
奈良文化財研究所 飛鳥資料館
(住所)〒634-0102
奈良県高市郡明日香村奥山601
- 問合せ
- 0744-54-3561
- 交通
- 近鉄橿原神宮前駅・飛鳥駅から 明日香周遊バス(赤かめ)「明日香奥山・飛鳥資料館西」下車
又は近鉄・JR桜井駅から 奈良交通(明日香奥山・飛鳥資料館西行)バスで「飛鳥資料館」下車 - 開館時間
- 9:00~16:30(入場は閉館30分前まで)
- 休館日
- 毎週月曜日(祝日の場合は翌平日)
- 観覧料
- 一般350円、大学生200円、高校生および18歳未満、70歳以上は無料(年齢のわかるものが必要です)
障がい者の方とその介護者1名は無料(手帳のご提示が必要です) - 会期
- 令和6年(2024)10月4日(金)~12月1日(日)
- 会場
- 飛鳥資料館 地階 特別展示室
- ホームページ
秋期特別展「水と暮らしの風景史―古地図と景観がひらく飛鳥」