2025年2月28日
1270年の伝統を紐解く 特別陳列「お水取り」
奈良国立博物館 学芸部研究員 樋笠逸人
奈良の中心街を東から見下ろすように建つ東大寺の二月堂。そのお堂の欄干から、何本もの松明が豪快に火の粉を散らす光景を、観光案内やニュースなどでご覧になった方もいらっしゃるでしょう。この「お松明」は、3月1日から14日まで行われる東大寺の年中行事「修二会」のほんの一部にすぎません。修二会の中核は、毎日6回、心身を清めた11人の僧からなる練行衆が、1年間の罪を悔い改める「悔過」という法要。「お松明」は、夜間の法要に向かう練行衆のための道明かりなのです。
奈良国立博物館では、毎年の修二会の期間に合わせ、恒例の特別陳列「お水取り」を開催しています(3月16日まで)。「お水取り」とは修二会の通称ですが、この通称も本来は、修二会を構成する数々の行事の一つを指します。それは3月12日の深夜、二月堂の前の井戸から神聖な香水を汲み、本尊にお供えする行事です。

二月堂縁起 上巻(部分)
奈良・東大寺
(展示期間:2月8日~24日)
この香水には、若狭国の遠敷明神が、修二会に遅刻したお詫びとして献上するようになったという由緒があり、室町時代の絵巻「二月堂縁起」には、遠敷明神が遣わした2羽の鵜が、香水の湧き出る泉とともに描かれています。このような神仏習合の信仰が、実際の儀式として受け継がれている点も、修二会の奥深い魅力の一つです。
厳粛で神秘的な修二会の中心、すなわち二月堂の本尊は、練行衆ですら見ることの許されない絶対秘仏、「大観音」「小観音」と呼ばれる2体の観音菩薩像です。当館では、その姿をしのばせる大観音の光背も展示しており、光背の頭光は「お水取り」展の会場にて、身光は「なら仏像館」にてご覧いただけます。光背の精緻な線刻は、東大寺の大仏蓮弁と並び称され、大観音が奈良時代に造像されたことを示しています。

重要文化財 二月堂本尊光背 頭光
奈良・東大寺
ところで、この光背が二月堂の外に出され、しかも断片となって伝わっているのは、寛文7年(1667)の修二会の際、二月堂が火災に遭ったためです。本展では、このとき焼け跡から発見された奈良時代の紺紙銀字華厳経(二月堂焼経)や、火災の中から小観音を救出し、翌年の修二会を欠かさず遂げた当時の練行衆の日記も展示します。

華厳経(二月堂焼経)
奈良国立博物館
修二会は奈良時代から現在まで1270年以上、一度も途絶えることのなかった「不退の行法」として伝えられています。修二会にまつわる文化財には、歴史的な価値や作品としての美しさ以上に、行事を守り伝えた練行衆たちの強い意志を感じさせるものが多くあります。ぜひ、当館の展示とともに、二月堂にも足を運んでいただき、奈良に息づく本物の文化に触れてみてはいかがでしょうか。
奈良国立博物館
(住所)〒630-8213
奈良市登大路町50番地
- 問合せ
- 050-5542-8600(ハローダイヤル)
- 交通
- 近鉄奈良駅下車 東へ徒歩約15分
またはJR奈良駅・近鉄奈良駅から奈良交通「市内循環外回り」バス「氷室神社・国立博物館」下車すぐ
特別陳列「お水取り」
- 開館時間
- 2月8日(土)~3月16日(日)
- 開館時間
- 9:30~17:00(入場は閉館30分前まで)
※東大寺二月堂お水取り(修二会)期間(3月1日~11日・13日・14日)中は午後6時まで、3月12日(籠松明の日)は午後7時まで - 休館日
- 2月10日(月)・17日(月)・25日(火)
- 観覧料
- 一般700円、大学生350円
※高校生以下および18歳未満の方、満70歳以上の方、障害者手帳またはミライロID(スマートフォン向け障害者手帳アプリ)をお持ちの方(介護者1名を含む)は観覧無料。
※高校生以下および18歳未満の方と一緒に観覧される場合、子ども1名につき、同伴者2名まで一般100円引き、大学生50円引き。
※同時開催の名品展「珠玉の仏教美術」(西新館)、「珠玉の仏たち」「特別公開 秘仏 深大寺 元三大師坐像 ー日本最大の肖像彫刻ー」(なら仏像館)、「中国古代青銅器」(青銅器館)もご覧になれます。 - ホームページ
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https://www.narahaku.go.jp/exhibition/special/202502_omizutori/