2025年5月26日
大阪・関西万博開催記念
特別展「日本、美のるつぼ─異文化交流の軌跡─」
京都国立博物館 学芸部 列品管理室長 永島 明子
19世紀後半の万博の時代、日本は明治維新を迎え、殖産興業政策の一環として西洋の市場に大量の古美術品を送り込みました。西洋人が抱く日本美術のイメージは、その骨董品や浮世絵によって形作られ、葛飾北斎や尾形光琳が人気を博しました。これに対し、明治政府は日本が高尚な「美術」の「歴史」を持つ「文明国」であることを示そうと、1900年のパリ万博で日本初となる西洋式の『日本美術史』をフランス語で編纂し、豪華な装丁で展示します。
この本は、当時の古社寺における宝物調査の成果を盛り込み、今では国宝や重要文化財となった名品を収録しています。翌年には日本語版が刊行され、いわば政府公認の美術史として現在私たちが知る日本美術史の基礎となりました。一方、西洋での光琳人気に触発され、日本でも俵屋宗達に端を発する「琳派」という概念が定着し、日本美術の代表格として語られるようになります。私たちが知る日本美術史は、万博をきっかけに、近代西洋諸国に向けて「日本」の魅力を発信するために誕生したと言えるのです。

Histoire de l’Art du Japon(『日本美術史』) 千九百年巴里万国博覧会臨時博覧会事務局編 明治33年(1900)刊 京都国立博物館蔵【通期展示、頁替あり】

国宝 風神雷神図屏風 俵屋宗達筆 江戸時代 17世紀 京都・建仁寺蔵【通期展示】
しかし、日本の美術品は閉ざされた島国で孤立無援に誕生したわけではありません。むしろ、異文化の影響を色濃く反映し、海外との活発な交流を物語っています。この展覧会ではそのことを時代を追いながら名品を通じてじっくりと感じ取ることができます。
展覧会の前半では中国、朝鮮とのつながりを、仏教を学びに行った人々の活動や交易がもたらした様々な文物に見つめます。

国宝 宝相華迦陵頻伽蒔絵𡑮冊子箱 平安時代 延喜19年(919) 京都・仁和寺蔵【通期展示】
トピック展示では、舶来品を模倣するときに生じたちょっとした誤解や、自分好みに「魔改造」された品をご紹介します。

変形神人車馬画像鏡 出土地不明 古墳時代 4世紀 京都国立博物館蔵【通期展示】
展覧会の後半では西洋の大型船がアジアの海に現れます。西洋諸国のみならずインドネシア、インド、ペルシア、メキシコといった遠くの国々と近世日本のつながりを知ることができるでしょう。朝鮮通信使との知的交流や、中国から伝わった新しい禅宗などの影響で再燃した中国への憧れにもご注目ください。

楼閣山水蒔絵水注 江戸時代 18世紀 京都国立博物館蔵【通期展示】

十八羅漢坐像のうち羅怙羅尊者像 范道生作 江戸時代 寛文4年(1664) 京都・萬福寺蔵【通期展示】
最後に「異文化を越えるのは、誰?」との問いかけのもと、ボストン美術館からの里帰りする「吉備大臣入唐絵巻」が登場します。奈良時代の国際人、吉備真備(695~775)の生涯や、その活躍を描く愉快でマンガのような絵巻の内容も実に興味深いのですが、この作品は、異文化との出会いと美術鑑賞にまつわる重要な物語を秘めています。詳しくはぜひ会場で。現代の国家の枠組みにとらわれることなく、美術の魅力に浸る絶好の機会となりますように。
特別展「日本、美のるつぼ-異文化交流の軌跡-」
会期: 2025(令和7)年4月19日(土)~6月15日(日)
京都国立博物館
(住所)〒605-0931
京都市東山区茶屋町527
- 問合せ
- 075-525-2473(テレホンサービス)
- 交通
- JR京都駅下車、京都駅前D2のりばから市バス各系統にて博物館三十三間堂前下車、徒歩すぐ
- 開館時間
- 9:00~17:30、金曜日のみ9:00~20:00 ※入館は各閉館30分前まで
- 休館日
- 月曜日
※ただし、月曜日が祝日・休日となる場合は開館し、翌火曜日を休館とします。 - 観覧料
- 一般2,000円(1,800円) 大学生1,200円(1,000円) 高校生700円(500円)
※( )内は20名以上の団体料金。
※大学生・高校生の方は学生証をご提示ください。
※中学生以下、障害者手帳等(*)をご提示の方とその介護者1名は、観覧料が無料になります。
*身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、戦傷病者手帳、被爆者健康手帳、特定疾患医療受給者証、特定医療費(指定難病)受給者証、小児慢性特定疾病医療受給者証
※キャンパスメンバーズ(教職員を含む)は、学生証または教職員証をご提示いただくと、各種当日料金より500円引き(一般1,500円、大学生700円、高校生200円)となります(当日南門チケット売場のみの販売、ほかの割引との併用はできません)。 - ホームページ
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https://www.kyohaku.go.jp/jp/exhibitions/special/2025_rutsubo/