2014年5月29日
この連載では,日本各地の地域の日本語教室で日本語を学び,地域で活躍する外国人の視点から地域の魅力,日本語や日本文化の魅力,日本語の学習などについて語ってもらいます。様々な背景を持つ外国人の方々がどのような思いで日本語を学び,日本の社会で暮らしているか,是非知ってください。
<静岡県浜松市>一般社団法人グローバル人財サポート浜松
多文化コンシェルジュ 宮本 ルーカスさん

ブラジル国旗を背に話をする多文化コンシェルジュ
宮本ルーカスさん
○はじめまして
こんにちは!ブラジル出身の宮本ルーカスです。趣味はスポーツとパソコン,特にテレビゲームとサッカーが大好きです。今年のワールドカップを楽しみにしています。
私は今年で28歳になります。父と母が日本に出稼ぎに来ていたため,14歳で初めて来日しました。人生の約半分は日本で暮らしています。ずっと昔に,父の母方の祖父母が熊本県からブラジルへ移住したので,私は日系4世ということになります。
日本に来て一番困ったことは,言葉が全く通じないことでした。知っていた日本語は「ありがとう」と「さようなら」だけで,それまでは全く勉強したことがありませんでした。
○多文化コンシェルジュとは
多文化コンシェルジュは,自国の魅力ある文化や言葉を地域の人に伝えたり,先輩住民として同国人に地域の情報や日本社会の習慣を分かりやすく伝える役割を担う人材として浜松市にあるグローバル人財サポート浜松が認定しています。
多文化コンシェルジュになろうと思ったきっかけは,日本在住の外国人に,日本の文化の一つである「言葉の文化」を伝えたかったからです。言葉が分かることで,世界が変わる。暮らしやすさのバロメーターの一つは,日本語がどのぐらいできるかなのだということを広めたいと思いました。
○「命を守るための日本語教室」を企画して

「命を守るための日本語教室」の一風景。
消防士や救命士を車座で囲み,災害への備えについて熱心に話を聞く。
私は,平成25年2月,「命を守るための日本語教室」(全6回)を企画し,コーディネーターとして携わりました。これは浜松市の太平洋沿岸地域の公共住宅に暮らすブラジル人を対象にした災害時に備えるための日本語教室です。
私はこの地域に10年ほど住んでいたのですが,海から約500mしか離れていない公共団地に住む外国人の間では,特に「津波が怖い」という声が多く聞かれました。しかし,地域の防災訓練に参加する外国人は少なく,日本のテレビやラジオを聞く人も少なかったのです。そこで,その不安を少しでも解消するため,この教室を企画しました。

災害時に役立つよう,初期対応や救命方法の体験学習では,真剣に実践。
地元の消防士や救命士,防災士の皆さんに協力していただき,食料の備蓄や防災バッグを準備することの大切さ,災害時の初期対応や救命方法,「津波てんでんこ」など自分の命を守るための行動をはじめ,「高台」や「避難」など,その時にならないと使わない言葉を地域の外国人皆で学習することができました。
一方,消防士の皆さんにも「外国人から119番通報があったら,できるだけやさしい日本語で対応してほしい」ということをお願いするなど,お互いに学び合う機会にもなりました。
○ルーカスさんにとって日本語・日本語教室とは?

多文化コンシェルジュを目指し,
日本語や地域の文化について学ぶルー
カスさん(中央)
日本語を学ぶことは難しいです。母国語が日本語ではない私たち外国人にとっては,暗号を解読するぐらい難しいのです。
日本で暮らしている多くの外国人は,できれば日本語を学びたいと思っています。しかし,「仕事が忙しい」「学びたいことを学べる教室がない」などの理由で,学び始めない,もしくは,断念してしまうと,よく耳にします。日本語の勉強に必要なのは「学び続ける力」,「学び続けるモチベーション」ではないでしょうか。それには「学び続けることによって何を得られるのか」を示すことではないでしょうか。
「あの人みたいになりたい。できるようになりたい。そのためにはどうしたらいいのか」と逆算して,どこかで「日本語を勉強しなければ」と気付くことができたら,どんな困難も乗り越えるきっかけになると思います。
きっかけは様々です。私ですか?私のきっかけは,テレビゲームでした。RPG(ロールプレイングゲーム)が好きで,そのゲームをするには日本語が分からないと先に進めません。そのため,分からない言葉が出てくると,いつも辞書で調べていました。そのうち,少し日本語が分かるようになると,家族の通訳に抜擢されて,いつの間にか通訳になりたいと思うようになりました。通訳になるには少なくとも日本語ができるという証明が必要なので,日本語能力試験1級(現在のN1)に合格するまで一生懸命に努力しました。その結果,現在は浜松市役所で通訳の仕事をしています。

現在は浜松市役所で通訳として活躍するルーカスさん
学習者の「継続は力なり」の道への第一歩につながるよう,日本語学習支援者や運営者は,学習者それぞれの事情に耳を傾けて臨機応変に対応することが望まれるのではないかと思います。
日本語教室は,日本語ができない人にとって日本語を学ぶ場所であると同時に,情報収集の場所,相談できる場所,日本文化と最初に触れることのできる場所です。日本語を覚えた後にも,これからの自分の行く道“N”を示してくれる羅針盤のような,そんな役割を果たす場所のようにも感じています。
○これから日本語を学ぶ外国人に伝えたいことは?
これから日本語を学びたい人に伝えたいことは,まず「きっかけ」を見つけること。次に「目標を定めて」,最後に「頑張り続けて」と言いたいです。言葉は教えてもらうものではなく,自分から覚えに行ってほしいと伝えたいです。
私は,日本語を覚えたことで世界が変わりました。覚えるまでは大変でしたし,多くの時間を費やしました。しかし,後悔はありません。それは,地域の多くの方に支えられて自分がここまで来られたのだと思うからです。
来日して間もない時にお世話になった中学時代の先生方,学校を卒業してからも通い続けた日本語教室の先生方に,この場を借りて感謝したいです。
<一般社団法人グローバル人財サポート浜松>
○団体ポリシー:人は地域の財産です
国籍や人種,性別や年齢の違いに関係なく,ただひたすらにこの街で心安らかに生きていくことのできる共生社会の実現に向けてわたしたちはできることから始めていきます。
○団体URL:http://www.globaljinzai.or.jp/index.html
○多文化コンシェルジュ名鑑:http://www.globaljinzai.or.jp/concierge.html
○平成26年度文化庁委託「生活者としての外国人」のための日本語教育事業