2014年9月19日
この連載では,日本各地の地域の日本語教室で日本語を学び,地域で活躍する外国人の視点から地域の魅力,日本語や日本文化の魅力,日本語の学習などについて語ってもらいます。様々な背景を持つ外国人の方々がどのような思いで日本語を学び,日本の社会で暮らしているか,是非知ってください。
<神奈川県横浜市>
ポルトガル語・日本語教師として活躍中!
長島 カリナ キヨコさん (ブラジル出身)
NPO法人ABCジャパン

1.はじめまして
こんにちは,私の名前はカリナです。2008年にブラジルから日本に来ました。
日系人三世であるにもかかわらず,日本に来たとき,私は日本語の知識を持っていませんでした。ごく基本的な単語をほんの少し知っていただけです。私が日本に来た目的は,仕事のほかに,日本語を勉強して,祖父母の文化について知ることでした。
そんな私が今はバイリンガル講師として日本語を教えています。今日は私が日本語教師になるまでをお話します。
2.地域の日本語教室に通って
日本語の読み書きも会話もできなかった私は,両親のサポートを受けて,勉強を始めました。まず,最も基本的なレベルからスタートし,ひらがな,カタカナ,その後,漢字を学びました。少し経つと,一人で電車に乗ったり,道端の看板を読んだり,日常的なことができるようになりました。
2009年,横浜市にあるNPO法人ABC ジャパンの日本語コースを受講しました。会話を練習する無料のコースで,ハイレベルのクラスに参加するという難しさもありましたが,さらに日本語を上達させるためにチャレンジしました。
その教室にいるほとんどは工場で働く人たちでした。先生は,日常生活でよく使う表現や日本語文法の重要なポイントを教えてくれました。数ヶ月後,ABC ジャパンの日本語コースを無事卒業しました。

ABCジャパンの日本語教室で(中央がカリナさん)
3.日本でポルトガル語の教師に?
同じ年,私はポルトガル語教室のアシスタントとして公文で働き始めました。日本人もいましたが,学習者の大半はブラジル人の子供たちでした。
彼らがポルトガル語を学ぶ主な理由は,ブラジルに戻ったときに,学校や社会で困らないようにするためです。なぜなら,日本語は子供たちにとっては既に日常生活の一部であり,学校にいるときも,テレビを見るときも,友だちと遊ぶときも日本語ですが,ポルトガル語は,「家で両親と話すときにだけ使う言葉」になってしまっているからです。
既に日本語を習得している子供たちに,「ポルトガル語も覚えてほしい」と願っている親もいます。子供が日本語とポルトガル語のバイリンガルになれば,より良い将来を手に入れることができますし,どちらの言葉にも不自由がなければ,日本でもブラジルでも,暮らす場所を選べるようになるからです。

学習者の課題の添削をするカリナさん
ポルトガル語教室での私の役割は,特にライティングとテキストの内容把握に注意を払いながら課題を採点すること,音読をチェックして,必要に応じて発音を直すこと,そして,子供たちの質問に答えること。そこで,ポルトガル語を教えるだけでなく,私も子供たちから日本語を学びました。まるで交換授業のようでした。
4.そして,日本語教師へ!
2012年から私はブラジル人対象の日本語教育部門に移りました。通学クラスと通信講座で日本語を教えています。日本語教育に携わるようになって,私の責任は大きくなりました。ポルトガル語とは異なり,日本語は私の母国語ではないので,私自身,今でも日本語の勉強を続けています。常に単語の正しい発音や,ほとんどの学習者が難しいと感じる助詞「は」と「が」の違いなどを教えなければなりません。漢字や動詞の活用形も難しいものです。
常に勉強が必要ではありますが,まだ学習を始めたばかりの学習者に,基本的なひらがな,カタカナを教え,彼らが短期間のうちに上達していく姿を見るのは嬉しいです。

日本語教室の学習者と先生たち(左から二人目がカリナさん)
5.日本語教室はどんな場所ですか?
学習者は,すでにスーパーで商品のラベルを読むことができ,職場では日本人の同僚と話ができます。私も日本でゼロから日本語学習を始めたので,言葉を学ぶことで日々少しずつ自立していく感覚が分かります。上のクラスに進むときには,証明書を受け取り,みんなに拍手してもらうのですが,そういう機会も日本語の勉強を続けていくための動機付けになっていると感じます。
また,年末には忘年会があって,ブラジル,日本,アメリカ,インド,フィリピンなど,様々な国の仲間が交流し,勉強以外のことも話し,とても楽しい時間を過ごします。こうして教室は,言葉だけでなく,お互いの文化についても学び合う場になっています。
6.これからの目標,夢は?
これから,日本語指導を続けていくとともに,私自身の日本語力も更に上達させたいと思っています。たとえ少しずつであっても,日本語の会話力,理解力をアップさせ,指導力を高めていきたいです。バイリンガル講師として今後も学習者が日本でより良い生活ができるように,自分の学習者としての経験を伝えながら,励ましていきたいと思っています。

教室の先生方と(左から2人目がカリナさん)
<NPO法人ABCジャパン>
○団体概要:
NPO法人ABCジャパンは,横浜市鶴見区在住のブラジル人によって2000年に設立された団体で(2004年に法人格取得),地域のブラジル人や南米出身者向けの生活相談や日本語教室,子どものための教育活動,地域社会との交流活動等を行なっています。また,2009年に全国のブラジル人コミュニティと連携して,NNBJ(在日ブラジル人全国ネットワーク)を立ち上げ,ブラジル政府や日系人団体との連絡調整も行っています。
○平成26年度文化庁「生活者としての外国人」のための日本語教育事業受託
