2015年2月19日
この連載では,日本各地の地域の日本語教室で日本語を学び,地域で活躍する外国人の視点から地域の魅力,日本語や日本文化の魅力,日本語の学習などについて語ってもらいます。様々な背景を持つ外国人の方々がどのような思いで日本語を学び,日本の社会で暮らしているか,是非知ってください。
<群馬県>
坂本 裕美(さかもと ひろみ)さん(ブラジル出身)
群馬大学・群馬県「多文化共生推進士」養成ユニット
コンサルタント・コース履修生(第3学年)
群馬大学「日本に定住を希望する外国人住民が高齢期に向けて
備えるための日本語教育支援事業」地域日本語指導者
1.はじめまして!
私は,ブラジル日系2世の坂本裕美です。「旭」という日本語が由来のブラジル・パラナ州アサイ市という所で生まれ育ちました。当市は,日本人が開拓した地です。日本人や日系人が集住していたので,当たり前のように,現地の小学校に上がると同時に,日本語学校に通うことになっていました。そこでは,日本の国語の教科書を使って日本語を学習していました。そのおかげで,日本で働くきっかけを手にすることができました。
長野冬季オリンピック後に,長野県の国際交流員として来日しました。在日ブラジル人学校で教員を経験した後,現在,公立小学校のバイリンガル教員兼公立高校のポルトガル語講師をしています。

平成26年10月19日,群馬大学地域日本語教室で。写真中央が坂本さん。
「緊急事態に日常からどう備えるのか」を考えるワークショップの進行を担当。
2.地域の魅力・地域での活動
群馬県を初めて訪れたのが,長野県国際交流員として太田市や大泉町を視察した際です。ブラジル人の私も,大通りを車で通過しているときに,ガソリンスタンドの店員さんが普通にポルトガル語で会話をしている光景や,ブラジルのいろいろなお店が密集していることに驚きを感じたことを鮮明に覚えています。
その私が,群馬県で,バイリンガル教員・ポルトガル語講師をすることになり,かれこれ10年になります。公立小中学校,高校の外国にルーツを持つ児童生徒たちの教育に携わってきました。子供や若者たちの悩みや希望を受け止めながら,深く関わりを持つことができていますが,いつも気になっているのが,保護者や大人の外国籍の方たちの思いです。学校に,電話一本入れるのも一苦労です。自分たちが,日本社会では「文盲」であるという現実に直面にしたときの辛さ,長い間日本に住んでいるが日本人の友達がいないという寂しさなどを耳にしてきました。
地域の多文化共生について考えるようになり,自分には何ができるのか考えるようになったその当時,群馬大学の「多文化共生推進士」養成ユニットを受講する決意をしました。そこで,今年度群馬大学が主催する「日本に定住を希望する外国人住民が高齢期に向けて備えるための日本語教育支援事業」(平成26年度文化庁「生活者としての外国人」のための日本語教育事業 地域日本語教育実践プログラムB)に地域日本語指導者として関わるようになりました。

群馬大学の地域日本語教室では,学習者の視点を大切にしながら入念な打合せを繰り返します。地域日本語指導者として参加する学生・地域関係者・「多文化共生推進士」養成ユニット履修生・多文化共生推進士・群馬大学教職員が対等な立場で,より良い日本語教室実践を目指して意見交換をしています。
この事業の中で,外国にルーツを持つ受講生たちから,「日本で生活していく上で必要な情報や知識を日本語で学ぶ機会を得て,とても感謝している」という声を直接聞くことができました。外国にルーツを持つ方たちも地域社会に参画できるように,これからも学習者の学びの応援に頑張って取り組んでいきたいと思います。
3.日本文化「茶道」に触れて
ブラジルの友人に一緒にしないかと誘われたのが,「茶道」です。
私は,その友人の日本語通訳としてその教室に伺っています。お稽古を重ねていくにごとに,茶道の奥深さに感動し,今は,自分にとって心の安らぎを与えてくれる時間となっています。
いつか自分の時間に余裕が持てるようになったら,華道も学んでみたいと思います。実は,自分の祖父が華道の先生だったことから,華道を学ぶことで自分のルーツにつながっていけるような気がしています。さらに,自分が,日本文化を通して味わう感動を,ほかの人たちにも伝えていきたいという気持ちも生まれています。

平成26年11月30日には,群馬大学の地域日本語教室の一環として群馬県みなかみ町で立礼による茶道のおもてなしを体験。
4.「日本語教室」という場所
群馬大学「日本に定住を希望する外国人住民が高齢期に向けて備えるための日本語教育支援事業」では,集まっている人たちが,日本人か外国人か,受講生か指導者かに関係なく,お互いに,「何か」を学ぶことができる場所だと思います。その「何か」は,日本語だけでなく,お互いの習慣,文化,考え方,人生観などかもしれません。
お互いに,自分が持っている思いを伝え,ほかのみなさんの思いを受け止め,共有する関係性。それが,外国にルーツを持つ方たちの自信につながり,その方たちが地域社会に入っていく第一歩になっていくように思います。その実感を大切にし,これからもこうした関係性を大切にした地域日本語教室を続けることに貢献していきたいと思います。

群馬大学「日本に定住を希望する外国人住民が高齢期に向けて備えるための日本語教育支援事業」の学習者のみなさんとともに。
<団体紹介>
群馬大学 多文化共生教育・研究プロジェクト推進室
(企画・運営責任者 結城 恵)
○URL:http://jst-tabunka.edu.gunma-u.ac.jp/
○所在地:群馬県前橋市荒牧町四丁目2番地
○本活動に関する連絡先:
TEL/FAX 027-220-7382
E-mail pcdc@ml.gunma-u.ac.jp
○日本語教室の案内:
当地域日本語教室では,「生活者としての外国人」が日本に定住し高齢期に備えられるようにするために,学習者の文化的・社会的多様性に配慮した日本語教育プログラムを提供することを目的に実践を積み重ねています。そのプログラム作りに,社会福祉,保健,介護,金融,企業等の関係者に参画いただくことによって,日本での高齢期に備える定住外国人を,産官学民が一体となって,「分かりやすく・伝わりやすい日本語」で支援していきたいと考えています。
○平成26年度文化庁「生活者としての外国人」のための日本語教育事業
平成26年度地域日本語教育コーディネーター受講
●平成27年3月8日(日)群馬大学にてシンポジウムを開催します。
御案内はこちらHPを御覧ください。
→http://jst-tabunka.edu.gunma-u.ac.jp/?p=2811


「年をとる」ということで生じる体の変化と感情を,教室参加者全員で,お年寄りの立場に立って理解するようにしています。その上で,備えに必要な健康・防災・年金・介護について体験的に学んでいます。