2015年12月7日
この連載では,日本各地の地域の日本語教室で日本語を学び,地域で活躍する外国人の視点から地域の魅力,日本語や日本文化の魅力,日本語の学習などについて語ってもらいます。様々な背景を持つ外国人の方々がどのような思いで日本語を学び,日本の社会で暮らしているか,是非知ってください。

考えてみませんか?
日本で暮らす外国人の子供について
<福島県須賀川市>
つばさ~日中ハーフ支援会 副会長
(公財)福島県国際交流協会 理事
ふくしま多文化共生サポーター
城坂 愛(しろさか あい)さん
1.はじめまして!
はじめまして,福島県須賀川市在住,中国大連出身の城坂愛です。2001年に結婚し,日本に定住しています。
来日前に日本語を学んできましたが,いざ生活してみたら言葉の壁を感じました。早く日本に溶け込むために,いろいろな日本語教室に通い,「国際交流の会・かるみあ」と出会いました。「かるみあ」は,郡山市で活動する国際交流の団体ですが,私にとって日本語を学ぶ場だけでなく地域へとつながる場でした。
「かるみあ」で,2001年に初めて国際交流,多文化理解のボランティア活動に参加しました。学校や公民館で中国茶や中国の楽器,胡弓などの中国の文化を紹介しながら,国際色豊かな他の文化と触れ合うこともできて,とても充実した活動でした。そんな活動をしながら,日本社会の中に自分の居場所を探し続けました。

2001年12月「かるみあ」の例会で中国茶紹介
その後,中国語講師の仕事を始めることになり,日本語能力を高める必要性に迫られました。勉強して,2003年日本語能力試験1級(現在のN1)に合格しました。
「かるみあ」のボランティア活動を原点にして,活動分野が広がりました。福島県国際交流協会の通訳ボランティアをはじめ,病院,裁判所,警察署,女性支援,職業安定所,学校など活動の場が広がり,様々なチャンスを頂きながら,地域の課題を知るとともに,学び,自分を磨く機会になったと思っています。
2.考えてみませんか? 日本で暮らす外国人の子供について
(1)親子間の言葉の断絶
2011年の東日本大震災後,郡山市のハローワークで中国語通訳として勤めていたとき,ある親子を見かけました。親は日本に何十年も住んでいる中国人ですが,日本語がうまく話せません。子供は中国生まれ,日本育ちでした。家庭では,親同士は中国語で,子供同士は日本語で会話していたそうです。
親子のコミュニケーションが,簡単な中国語・日本語での会話だけになってしまったため,親子関係までおかしくなってしまったそうです。子供は「親と一緒にいると,親の日本語が下手なせいで恥をかかされる」と,親に対して軽蔑的な視線を向けていました。
世の中にこれほど悲しいことはないと感じました。このような親子関係にならないようにするには,やはり親の文化を知り,自分のアイデンティティーをしっかり持つ子に育てなければなりません。継承語教育の重要性と,親としての責任の重さを強く受け止めました。

2014年つばさ・秋野外バーベキュー時の運動会
幸い,今,日本は国際化が進んで,外国住民が増え,様々な事例の共有や研修の場ができています。東京,大阪など外国人集住都市では継承語教育についての研究や実験が始まっています。
実は,2015年12月に東京で開催される(一財)自治体国際化協会主催の「外国人コミュニティ全国会議」で発表の機会を頂くことになりました。このような社会の動きが大変心強く,継承語教育の環境作りにも力を入れていけるように頑張りたいと思います。
(2)子供たちの早期適応に向けた心のケア
次に外国人の子供に対するサポート活動について御紹介したいと思います。
私は,2006年から(公財)福島県国際交流協会のふくしま多文化共生サポーターに登録し,来日間もない中国出身の子供の早期適応を支援しています。
日本に呼び寄せられた子供は,様々な状況で,本人の気持ちを整理できないまま,いきなり連れてこられたケースが多くみられます。
このような場合,日本語を勉強する前に,まず子供の心のケアが大切です。母国語で気軽に話せ,信頼できる,家族以外の大人が必要とされています。
私の主な役割は,来日した子供の心のケアを含めて,よりスムーズに学校生活になじんで行けるように,母語でのサポートをすることです。
中国の雑誌社で働いていたとき,心の相談コーナーを担当していました。その経験を生かして,子供たちに異国での不安な情緒を発散させ,学校生活で戸惑っていることを解決すると同時に,中国での学校生活状況や,習慣,及びその子供の状況を細かく聞き取って,学校側に情報提供し,周りの理解と協力を得られるようにしています。

2015年つばさ・国際家庭仲良し促進活動での親子ゲーム
一人の子供に対して母語話者による心のケアと,日本人支援者による日本語教育支援を,二人体制で行うという取組は,福島県内ではまだ始まったばかりです。
私と二人三脚で支援を担当している三田さんと,一緒に相談しながら,担当する子供の問題の解決方法を探っています。様々な事例に対応しながら,母国話者と日本人支援者の両方が関わることによって,子供はより早く学校生活になじみ,楽しく学習して,日本語の上達スピードも早くなっていると日々実感しています。

ふくしま多文化共生サポーターの城坂さんと三田さん
3,地域の皆さんとともに!「つばさ~日中ハーフ支援会」
もう一つ,力を入れているのは「つばさ~日中ハーフ支援会」の活動です。
「つばさ」は震災後の2011年10月,須賀川市で設立されました。震災後に各地の被害・支援の状況や,原発事故などについても幅広く情報交換しながら,互いに支え合ってきました。今は日本生まれの日中ハーフの子供たちと中国出身の母親たちが,日本の社会の中で円滑に日常生活を送れるようになることを目的として,福島県国際交流協会をはじめとした様々な機関と連携しながら県内で活動しています。現在,中国人出身女性とその家族,そして地域の日本人を含めて,63名の会員が集まっています。
地域のお祭りで中国舞踊を披露したり,チャイナドレスを展示したり,ミニ中国図書館を開いたり・・・と様々な活動を通して中国人団体の存在をPRし,地域の皆さんに関心を持ってもらいながら,少しずつ外国人にとっても生活しやすい地域を作ろうと頑張っています。

地域のお祭りで中国舞踊を披露。文化交流・文化発信の場を大切にしています。
「つばさ」では毎月2回中国語教室を開催しています。主な対象は,日中国際結婚家庭に生まれた子供たちですが,日本にいる中国にルーツを持つ子供も含めています。
外国にルーツを持っている子供たちは,日本社会では少数派であり,「自分の家庭状況が周りの友達と違う」ということがコンプレックスになりやすいです。そこで,同じ状況の子供たちが集まる場作りをし,そこに自分の居場所を見つけ,孤独感を解消し,中国語や中国文化に触れることを通して,子供たちが自らのアイデンティティーを形成し,誇りを持てる大人に育っていってほしいと願っています。

東京中国文化センター・中国駐新潟総領事館から図書の贈呈式で子供たちが寸劇を披露
「つばさ」での活動を通して,子供たちは親との関係が良くなり,親の文化や習慣を理解しようとする姿勢も見受けられるようになってきました。親子関係の改善は家庭全体の雰囲気の改善にもつながっています。このように良い循環が生まれ,子供たちの笑顔も増えるようになりました。
設立から4年,「つばさ」の名前は地元に知ってもらえるようになってきました。須賀川市の市民サポートセンターも「つばさ」の活動を大きく紹介してくださり,回覧板に添付して各家庭に配布していただけるようにもなりました。
何よりそれを実感するのは,地域の家庭や職場で「つばさ」の活動が話題になり,近所の方や同僚から「あなたたち,すごいね!新聞に出ていたよ」と声を掛けていただいたときです。そして,地域社会の一員として認められた喜びを感じて,会員たちが更に高い意識を持って社会活動に参加するようになったことがとてもうれしいです。
これからも,地域の団体の一つとして,地域の皆さんと一緒に,地域の子供たちが大きく羽ばたけるよう,より良い地域作りに貢献していきたいと思っています。


日本と中国の両国をつなぐ子供たちの翼となる教育支援をこれからも続けていきます。
つばさ~日中ハーフ支援会
・URL:http://blogs.yahoo.co.jp/hunxuere2011
ホームページは準備中です。ブログ:FKCMつばさにアクセスをお願いします。
国際交流の会・かるみあ
・URL:http://kalmia1995.org/
地域社会の中で,文化や世代を超え,違いを認め合い,それぞれの個性を生かせるコミュニティ作りを目的に活動。1995年設立。
<主な活動>
1. 国際文化交流活動
2. 日本語学習ボランティア活動
3. 地域国際化協力活動