2016年2月19日
この連載では,日本各地の地域の日本語教室で日本語を学び,地域で活躍する外国人の視点から地域の魅力,日本語や日本文化の魅力,日本語の学習などについて語ってもらいます。様々な背景を持つ外国人の方々がどのような思いで日本語を学び,日本の社会で暮らしているか,是非知ってください。

<北海道>
雪国からこんにちは!
SIL札幌日本語学校
佐々木 ペティアさん(ブルガリア出身)
1.北海道に暮らすことになった理由
こんにちは,佐々木ペティアと申します。ブルガリア出身です。
最初の来日は23年前でした。大学院修了後,研究機関で働くために北海道札幌市へ来ました。
来日前,「日本語を使わなくても仕事も生活もできる」と聞いていましたが,日本で生活していくうちに「日本語を理解できたら,話せたら,一日の過ごし方ややりがいは変わるだろうなぁ…」と感じ始めました。
仕事のため,昼間の日本語教室に通うことはできませんでした。そこで,夜に日本語教室を開いていたSIL札幌日本語学校を探して,島治美先生に出会いました。そこから,私の日本語学習が始まりました。ほとんどゼロからのスタートでした。

洞爺湖の美しい景色
初めの一年半の滞在は,仕事と日本語学習でとても忙しかったのですが,時間を見つけては色々な所を見て回りました。北海道の美しい自然と親切な人々に惹かれ,日本,日本語,日本の文化と伝統について,もっと知りたいという気持ちが強くなりました。なかでも「生け花」が再来日のきっかけになりました。今は家族4人,札幌で暮らし,SIL札幌日本語学校に勤めて,日本語を勉強しにやって来る外国人のサポート業務に携わっています。

SIL日本語学校での日本語学習

昭和新山の山頂から見える有珠山
2.雪国で暮らす外国人の苦労・・・サポートの必要性

危険な雪。知らないと思わぬけがをすることも
北海道の冬は11月から3月末まで続きます。5か月もの間,気温が低く雪に閉ざされた状態で生活することになります。吹雪になったり,水道が凍結したりと天気予報を理解することは「北海道初心者」にとって大変重要なことです。また,雪によって鉄道や高速道路が止まったり,道路が渋滞したり通行止めになったりと,生活に影響が出ることが一冬に何度もあります。私自身,札幌で暮らしながら雪道での車の運転や家の周りの雪かき(除雪)のマナーや技術を徐々に身に付けました。
日本語教室では,雪道の安全な歩き方,雪や氷などの危険性を分かりやすく教えています。さらに,雪の不便さや悪い影響だけではなく雪遊びの楽しさについても伝え,大変喜ばれています。

子供たちと雪国の凍るシャボン玉体験

札幌雪祭りは毎年大興奮
3.広~い北海道で外国人コミュニティーの核となる「日本語教室」
北海道は面積が広いのですが,住んでいる外国人は関東・関西と比べて少ないです。国別で見ると,中国,韓国,アメリカ,オーストラリア,ロシア,フィリピン以外の国の外国人は少数で,多国籍になっています。ですから,北海道で暮らす外国人は,国別のコミュニティーではなく,暮らしている地域で国籍の枠を超えたコミュニティーを作るということが大切になるのです。
各地域で開講している「日本語教室」では,参加者同士が友達になり,色々な情報をお互いに交換したりしています。「日本語教室」は外国人にとって日本での生活のスタート地点という大切な役割を果たしています。


地域の日本語教室で仲間ができ,地域とつながると日本での生活が豊かになります。
4.地域交流の拠点となる日本語学校
1992年にスタートしたSIL札幌日本語学校は,今まで30か国以上,延べ800人の学習者を受け入れてきました。いわゆる,留学生対象の日本語学校ではなく,大学生,大学院生を含め,北海道で暮らす,幅広い年齢と職業の外国人が日本語と日本の文化を学ぶための学校です。
私が日本文化に魅力を感じて日本にやって来たように,外国人にも,日本語を使って地域の中に入って地域の方と交流する機会を持ってもらうようにしています。ホストファミリー・ネットワークを活用して,家族の一員として受け入れてもらい,時には年越しから元旦,初詣と一緒に過ごしてもらったり,ランゲージ・ボランティアと一緒にスポーツや料理などをしながら,日本語や日本文化,日本での生活に対する理解を深めるための交流を行っています。

ボランティアの方に浴衣を着付けていただき,これから夏祭りへ
5.日本語教室がない地域があること
札幌には日本語教室が幾つかありますが,広い北海道にはまだ日本語教室がない地域,外国人に対する日本語学習支援に関わりたくてもボランティア研修が受けられない地域が多くあります。そこで,SIL札幌日本語学校では2009年から文化庁のプログラムを展開しています。「生活者としての外国人」にとって,生活情報や防災情報などを得るために必要な日本語を身に付けるには,日本語習得のお手伝いができるボランティアの活動や助けが欠かせない現実があり,「日本語ボランティア養成講座」はこれまでの7年間,大好評です。
最初,会場は札幌市のみでしたが,現在では旭川市,帯広市,千歳市,倶知安町で養成講座を行っています。また,外国人親子に生活に必要な日本語や,地域の方や学校の先生方とのコミュニケーションのための日本語を身に付けてもらえるように,札幌のほか,千歳や倶知安で「日本語教室」も開講しています。


千歳や札幌での親子日本語教室の様子。一緒に学べる場が大切です。
6.外国人だからこそ,できることを,これからもここで
日本語を習うために初めて日本に来る外国人も少なくありません。日本人には当たり前のことでも外国人にとっては分からないことだらけです。私も分からないことがたくさんがありましたし,今でもあります。日本語を勉強しに来る外国人に多くの生活情報を提供し,期待どおりの学習成果を上げてもらうためのお手伝いをすることが,私にできることの一つだと考えています。講師たちの思いを学習者に届けることも心掛けています。
私もかつては「日本語学校に通う学習者」でした。日本語学校のスタッフに外国人を採用することのメリットについて,日本の認識はまだ余り高くないかもしれません。しかし,外国人と一緒に働くことで,日本人の外国人に対する理解は高まり,お互いの違いを理解してより良い関係を作ることができるようになるのではないでしょうか。また,日本語を勉強中の外国人にとっては,私のような日本で暮らす「先輩外国人」が身近にいることで,日本語だけではなく「日本そのもの」への理解を深めることにも役立つのではないかと思っています。
<団体紹介:SIL札幌日本語学校>
- ○ URL:
- http://www.silnihongo.com
- ○ Facebook :
- https://www.facebook.com/sil.gakko
- ○ 所在地:
- 札幌市中央区南2条西18丁目291ベル医大前1F.
- ○ 連絡先:
- E-mail:info@silnihongo.com
Tel:011-614-1101
○ 平成27年度文化庁委託「生活者としての外国人」のための日本語教育事業:
「北海道における日本語教育推進プロジェクト―地域多文化共生を目指して2015」
