2016年8月8日
この連載では,日本各地の地域の日本語教室で日本語を学び,地域で活躍する外国人の視点から地域の魅力,日本語や日本文化の魅力,日本語の学習などについて語ってもらいます。様々な背景を持つ外国人の方々がどのような思いで日本語を学び,日本の社会で暮らしているか,是非知ってください。

元気な「くまもと」を届けたい!
~日本語教室の絆で災害を乗り越える~
<熊本県熊本市>
エサニ サミラさん(イラン出身)
熊本市国際交流会館 日本語クラブ
1. (ホシバフタム:ペルシャ語ではじめまして!)
私はサミラです。2012年8月にイランから日本に来ました。私はイランではコンピュータープログラマーとして働いていましたが,当時イランから熊本大学に留学していた主人と一緒に暮らすために日本に来ました。今は主婦です。私の主人は熊本大学の博士課程を修了した後,昨年から熊本の企業で働いています。そのため,私はこれからも熊本に住む予定です。

私たち夫婦がお世話になっているボランティアの
先生と一緒に(中央:先生)
2.住みやすい町・熊本
熊本市は熊本県の西北部に位置する,熊本県最大の都市です。町並みは熊本城を中心に整備され,歴史情緒あふれる町です。熊本市はとても住みやすく,魅力的な町だと思います。一方,私たちイスラム教徒(以下,ムスリム)にとって注意しないといけない点もあります。イスラム教では,食べてはいけない物が決められています。熊本ではムスリムが食べられる物を見付けるのに困ることもあります。そうしたとき,私たちは時々福岡へ食べ物を買いに行くこともあります。しかし,熊本市ではムスリム向けに「おもてなしガイドブック」を作るなど,多様な背景の人々を受け入れるための取組がなされています。

ムスリムのための
熊本おもてなしガイドブック
3.日本語を勉強しはじめたきっかけ
日本に来たとき,日本語が全然できなかった私は,日本での生活がどうなるのか,とても心配でした。熊本には英語を話せる人が少なかったので,生活に困らないように,そして日本人の友達を作るためにも,日本語が必要だと感じました。また,日本の文化を理解するためにも,日本語を勉強することが大切だと思いました。しかし,日本語と私の国の言葉であるペルシャ語は大きく異なるので,自分一人で勉強することはできませんでした。それで熊本市国際交流会館(以下,国際交流会館)の日本語クラブに通い始めました。日本語クラブでは,ボランティアの先生とまず一週間に1回勉強し始め,途中から一週間に2回日本語クラブに通うようになりました。そうしているうちに,だんだん日本語ができるようになってきました。そして,今も日本語の勉強を続けています。
4.大好きな国際交流会館
日本語クラブへの参加費は1日100円と安いですが,整った設備があり,素晴らしいボランティアの先生やスタッフの方々がいます。国際交流会館のスタッフの心遣いで,ムスリムが祈りをする部屋まであります。
国際交流会館では日本文化を紹介するために色々なイベントが企画されます。私もそのイベントに参加しています。1月の書き初めと茶道,春のお花見,秋のお月見や日本の着物体験に何回も参加しました。私にとって日本文化や伝統を味わうことは,初めての体験だったので,とても楽しいことでした。それだけではなく,国際交流会館では日本料理を作るイベントもあります。日本の料理は世界の中で健康的な料理として有名です。私もそのイベントに参加して,ボランティアの先生と料理を作りました。

お祈りの部屋の天井には,
メッカの方向を示す
矢印が設置されています

国際交流会館のイベントを通じた交流は,
日本語の勉強にもなります
5.熊本地震での助け合い
今年(2016年)4月,熊本では大きな地震がありました。熊本地震と呼ばれるこの地震では,立て続けに2回も大きな揺れがあったことが特徴で,そのために被害も拡大しました。今も避難生活を余儀なくされている人たちがたくさんいます。
イランでも地震はありますが,こんなに大きな地震は初めてで,とても怖い思いをしました。私の主人は大学で地震のことを研究していたので,安全な行動ができるように助けてくれました。私たちは地震の直後,福岡の友人を訪ね,そこで過ごしました。その後,熊本へ帰りましたが,余震が多く,夜は近くの避難所で過ごしました。こうしたとき,国際交流会館のスタッフと日本語教室のボランティアの先生たちが,必要な情報を提供してくれたり,サポートをしてくれたりしました。こうした情報は,日本語の他に,英語や中国語,韓国語に翻訳され掲示されました。また,国際交流会館では,外国人住民への相談窓口も開設され,様々な生活に関わる相談をすることができました。このように,国際交流会館のような組織は,災害時にも私たち外国人にとって大きな支えになっていると感じています。
また,国際交流会館は外国人だけではなく,日本人にも避難所として開放されました。そこでは,国籍や文化的背景を越えて人々が助け合っていました。炊き出し支援には外国人住民も参加して,支援を受けるだけではなく,支援をする側としても活動していました。ふだんから,日本人住民と外国人住民とが,日本語教室や文化体験等の交流活動を通じて,信頼関係を培っているからこそ,災害時にもこうした活動が行われるのだと思います。

国際交流会館では,災害時の生活情報が
多言語(英中韓)で提供されました。

国際交流会館での炊き出し支援には,
外国人住民も参加し,和気あいあい!
6.地震を経て,私の熊本への思い
私は日本に来てからずっと主人と熊本に住んでいます。熊本は自然がきれいで,人々は友好的です。また,おいしい野菜やお米もたくさんとれます。熊本城や水前寺公園,阿蘇や菊池は私の好きな観光名所です。熊本地震では,これらの観光名所の多くが倒壊などの被害に遭いました。本当に悲しいです。早く修理され,また世界から多くの観光客を迎えてほしいと思います。 私は4年ぐらい日本に住んでいますが,これまで非常に困ったということはありませんでした。何か困った時には日本人の友達や国際交流会館のスタッフ,日本語教室のボランティアの先生方にお世話になっています。いつも親切な皆さんに助けられました。私たち外国人に対する皆さんの親切な対応には,本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
熊本市国際交流会館 (運営:一般財団法人熊本市国際交流振興事業団)
- ○ 概要
-
「世界と熊本をつなぐ」熊本市の国際化の拠点施設として,熊本城への入り口に位置しています。多言語での観光情報,Wi-Fi,レンタサイクル等の提供を行っています。
また,「すべての人が快適に安心して暮らせる社会」の実現を目指して,多文化共生社会づくりを積極的に推進しています。「生活者としての外国人」のための日本語教育事業では,次の2つの日本語教室を開催しています。
① 初級日本語集中講座
来日間もない外国人や日本語を学習したことがない外国人の方々を対象にした日本語の基礎を学ぶ講座(1日6時間,5日間の集中講座,年4回程度開催)② くらしのにほんごクラブ
ボランティアの方々との楽しい日本語でのおしゃべりや交流イベントを通して熊本での日常生活に慣れるための日本語会話活動(毎週火曜日・水曜日・日曜日開催)さらに,熊本県立大学と協力して「生活者としての外国人」のため日本語教育教材を作成しています。
(熊本県立大学は,平成26~27年度「生活者としての外国人」のための日本語教育事業採択団体)
館内には多文化共生オフィスがあり,日本語教育事業の他,「多言語での生活相談」,「外国人のための防災」,「外国ルーツの子どもたちへの教育支援」等の事業を実施しています。 - ○ ホームページ
- http://www.kumamoto-if.or.jp/