2015年1月6日
所蔵作品展「近代工芸案内―名品選による日本の美」
東京国立近代美術館主任研究員 諸山正則
明治時代から平成の今日へ,日本の工芸は,優れたわざや特色ある美を華やかに,造形の可能性を発展させ,新しい時代を開拓してきました。やきものやガラス,漆工,染織,金工,人形等の様々な分野と素材の魅力を訴え,時代にマッチした自由な創作表現を表して多くの作家たちが活躍してきました。近年,日本の文化や伝統を踏まえた近代工芸への関心が国際的に高まっていることは御存知でしょうか。本展では,歴史的な理解と関心を高めてほしいのですが,何よりも美しく力強い工芸を見て感動してほしいのです。
東京国立近代美術館では,1977年に工芸館を開館して以来,そうした芸術としての近代工芸の系譜を歴史的に検証できるコレクションの充実を図り,多くの多彩な作品を収集してきました。今回の展覧会は,3,400点をこえる収蔵作品の中から名品約130点を精選し,日本の近代工芸発展の歴史を回顧するとともに,工芸の美とちから,そして豊かな魅力をいっぱいに御紹介するものです。
例えば,昭和初期頃から活躍した東京の野口光彦は,日本のもっとも伝統的な御所人形の分野で,高度なわざと個性を発揮して人形の近代的表現を確立させた作家です。愛くるしい童子の姿を借りて,「陽炎」といった創作のテーマを豊かに,情感たっぷりとその造形に表しました。

野口光彦 ≪陽炎≫ 1969年
東京国立近代美術館蔵
また石川県の九谷焼を継承した三代徳田八十吉は,重要無形文化財保持者として伝統工芸の継承と発展に尽力した,戦後を代表する陶芸家です。九谷焼の特徴的な色釉による絵画的描写を表すのでなく,色釉を駆使して同心円や並置などの簡明な意匠で磁器の器物の表面を彩る制作で独自の表現世界をつくりあげました。その鮮麗で現代的な造形感覚は高い評価を獲得し,海外でも話題の多い作家となりました。

三代徳田八十吉 ≪耀彩鉢 創生≫ 1991年
東京国立近代美術館蔵
今回はおおまかに歴史的な構成とし,各々の時代の創作的表現と芸術的特質を代表する名品ばかりを陳列しました。(1)世界に躍動した明治時代の工芸,(2)自由な創作と独創性を訴えて近代工芸を確立した大正から昭和前期頃,(3)新たな芸術思潮として世界に普及した民藝運動を推進した個人作家たち,(4)日展の創作やオブジェ,クラフトといった多様な表現分野が出そろった戦後の工芸,(5)優れたわざと美を伝承し現代へと発展させてきた伝統工芸,そして(6)現代美術が活発化した1980年代頃以降から今日へといたる,現代の工芸の6部とし,120余名の芸術を分かりやすく御覧いただけます。
諸山正則(東京国立近代美術館主任研究員)
東京国立近代美術館工芸館
〒102-0091 東京都千代田区北の丸公園1-1
- 問合せ
- 03-5777-8600(ハローダイヤル)
- 交通
- 東京メトロ東西線「竹橋駅」1b出口徒歩8分/東京メトロ東西線・半蔵門線・都営地下鉄新宿線「九段下駅」2番出口徒歩12分
- 開館時間
- 10:00~17:00(入場は閉館30分前まで)
- 休館日
- 毎週月曜日(ただし1月12日は開館)・1月13日
- 観覧料
- 一般210円(100円),大学生70円(40円),( )内は団体料金。
高校生以下及び18歳未満,65歳以上の方と障害者手帳をお持ちの方(付添は原則1名まで)は無料。
※無料観覧日(2月1日) - ホームページ
- http://www.momat.go.jp/