2015年2月4日
小さなジュエリーに凝縮されたダイナミックな空間性
東京国立近代美術館工芸館 主任研究員 北村仁美
肩を覆う鎧のような「ネックオーナメント」や,大きく膨らんで指からこぼれ落ちそうな「リング」など,中村ミナト(1947- )のジュエリーは,一般に思い浮かべられるネックレスや指輪のイメージからは,かけ離れているかもしれせん。一見,どうやってつけるの?と戸惑われるかもしれませんが,外見とは裏腹に,身につけるとしっくりと馴染み,着けやすいものばかりです。
中村ミナト 《ネックオーナメント「blue」》
アルミニウム
1990年 個人蔵
撮影:西山史祠
創作的なジュエリーの制作は,日本では戦後に本格化します。伝統的な金属の装飾技法を現代生活に見合う装身具に応用するため,現代の感覚で伝統技法を読み替えながら,フォルムの抽象化や素材の開放が進められ,アートやデザインの動向にも示唆を受けつつ,徐々に新しいジュエリーの領域が拡大していきました。中村ミナトは,日本における抽象形態のジュエリーの代表的作家として位置づけられます。
中村ミナト 《ブローチとペンダント「透明な形」》
銀(925),ラッカー
2011年 個人蔵
撮影:ジュエリーフォト
線や面,球体などで構成される明快なかたちは,中村が平行して進めている彫刻制作と密接に結びついています。大学で彫刻を学んだ後,小さな抽象彫刻を作ろうとしたことをきっかけに,ジュエリー制作に携わるようになりました。
しかしながら,彫刻とジュエリーとは,単にサイズを大きくすれば彫刻,小さくすればジュエリー,という単純な関係ではありませんでした。何回かの試行錯誤のあと,中村は,彫刻とジュエリーは全く別のもの,という認識で制作場所も発表の場も分け,それぞれに制作を展開していくこととなります。
中村ミナト 《ブローチ「inside out」》
アルミニウム,アルミ熔射,アクリル絵具
2004年 個人蔵
撮影:西山史祠
こうしてジュエリーでは,抽象的フォルムに主眼を置いた,小さい中にも空間の広がりを感じさせる作品が,まずは銀を素材として展開していきます。四角から球,線から面へと形態を変えながらも,身につけるというジュエリーならではの制約と真摯に向き合い,「装着時にできる空間そのものが作品」という中村独自のジュエリー観を築き上げていきます。
中村ミナト 《ブローチ「color belts」》
アルミニウム,ラッカー
2007年 個人蔵
撮影:ジュエリーフォト
そして近年,中村は,彫刻とジュエリーがこれまでになく接近してきた,と語っています。彫刻的な空間意識に鼓舞されながら,中村のジュエリーはどのような変化を遂げたのでしょうか。本展では,初期から今日に至る中村のジュエリー約60件で,作品の変遷を御覧いただくとともに,当館の展示空間にあわせてこのたび制作された彫刻作品も出品し,身体を舞台とする小さなジュエリーに凝縮されたダイナミックな空間性を御覧いただきます。
東京国立近代美術館工芸館
〒102-0091 東京都千代田区北の丸公園1-1
- 問合せ
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- 10:00~17:00(入場は閉館30分前まで)
- 休館日
- 毎週月曜日(但し3/23,3/30,4/6は開館)
- 観覧料
- 一般210円(100円),大学生70円(40円),
高校生以下及び18歳未満,65歳以上,
障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。
3/1,4/5は無料観覧日 - ホームページ
- http://www.momat.go.jp/