2015年6月10日
北大路魯山人の美 和食の天才
京都国立近代美術館 主任研究員 牧口千夏
書や篆刻,料理,そして陶芸など多彩なジャンルで活躍し,美食の道をきわめた存在として広く親しまれている異才の芸術家,北大路魯山人(1883-1959)。〈和食〉のユネスコ無形文化遺産登録を記念した今回の展覧会では,すき焼きや納豆に限らず数々の美食談義でも知られる魯山人の「器は料理の着物」という言葉をテーマに,器と料理の関係に注目し,これまでにない切り口で魯山人の魅力に迫ります。
1883 (明治16)年京都に生まれた北大路魯山人(本名・房次郎)は,様々な遍歴を重ねた後,東京で古美術店「大雅堂」を共同経営するなか,店で販売している古陶磁に料理を盛り付けて客にふるまう顧客サービスを思いつきます。1921(大正10)年から設立した会員制「美食倶楽部」は,京都や滋賀,北陸での食客時代に文人たちとの交流を通じて育んだ,食と器についての見識を実践する場となり,そのユニークな活動は当時の食通たちの間で評判となりました。
料理人として魯山人が最も活躍したのが,東京・永田町の会員制高級料亭「星岡茶寮」の顧問兼料理長を務めた時期(1925-36)です。星岡茶寮の機関誌からは,全国から四季折々の食材を調達したり,食材の鮮度と持ち味を生かす調理法にこだわったりと,魯山人が最高の料理を提供する美食の世界を追求していたことがうかがえます。また早朝の古陶磁鑑賞を兼ねた食事会や夏の自然あふれる庭園を開放した納涼園など,人々をたのしませる演出を様々に工夫し,魯山人流もてなしを次々と展開。星岡茶寮での修業を志し,後に料理人として初めて文化功労者となった湯木貞一は,当時の星岡茶寮について「何とも言えん,料理の花を咲かせている家として存在していたのです」と語っています。
魯山人が本格的に作陶の道へと進んだのは,星岡茶寮で使用する食器制作がきっかけでした。1927(昭和2)年,自らが理想とする食器を求めて北鎌倉に「魯山人窯芸研究所星岡窯」を設立し,次第に古陶磁の研究と作陶活動に没頭していきます。料亭経営から離れた後は,作陶と料理の領域で精力的な活動を展開しました。作陶の「師」として熱心に蒐集した古陶磁から多くを学びながらも,俎板皿や大鉢といった魯山人独自の美意識が表れた器と,料理が繰り広げるその豊かなダイアローグは,美食を求める多くの人々を魅了してきました。

「色絵金彩椿文鉢」
1955年 京都国立近代美術館
今回の展覧会では,和食の魅力を追求し,その革新に挑んだ魯山人の作品世界を読み解くことで,日本の美意識,もてなしの精神,自然観を結晶させた器と料理の関係を紹介します。

「織部四方蓋物鉢(瓢亭・くずやにて)」
撮影 上田義彦
本展の見どころは,京都の三つの料亭(瓢亭,菊乃井,京都吉兆)の協力を得て,現代日本の写真家(上田義彦,広川泰士,蓮井幹生)が撮り下ろした映像・写真による空間演出です。
約400年の茶店としての伝統を守り続ける瓢亭の佇まいを,上田義彦が独自の世界観で表現します。菊乃井では光の移ろいに着目した広川泰士が,体験的な映像インスタレーションを手がけます。京都吉兆では,数寄屋造りの空間と嵐山の風景を,蓮井幹生が徹底的に細部にこだわりながらも軽やかな視点で捉えます。現在の視点で三者三様に映像化された京都の料亭の総合的な「美」の世界を,魯山人作品とともに堪能していただけるでしょう。
しつらい,料理,器,もてなしの精神といった,料亭におけるすべての構成要素が一体となった総合的な「美」の世界こそ,プロデューサーとしての魯山人が目指したものでした。現在では和食文化の一部として受け継がれている,魯山人の美を味わう姿勢とその世界観を通して,改めて和食の奥深さを見つめ直す機会となれば幸いです。
京都国立近代美術館
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- 北大路魯山人の
美 和食の天才
観覧料 - 当日 一般1,400円, 大学生1,000円,高校生500円
前売り(販売期間:5月11日~6月18日) 一般1,200円, 大学生800円, 高校生300円
団体(20名以上) 一般1,200円、 大学生 800円,高校生300円
※本料金でコレクション展もご覧いただけます
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- 北大路魯山人の美 和食の天才ホームページ
http://kitaoji-rosanjin.jp/wordpress-kitaoji/
京都国立近代美術館ホームページ
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