2015年10月1日
生誕100年を迎えた「呪われた天才」オーソン・ウェルズ
東京国立近代美術館フィルムセンター研究員 大澤浄
オーソン・ウェルズという人を御存じでしょうか?全く知らないという若い方から,昔ウイスキーのCMや英語学習教材の広告で見たという方,映画『第三の男』(キャロル・リード監督,1948年)での名演が忘れられないという方など,世代によって印象が異なるかもしれません。
ウェルズは1915年にアメリカ中西部で生まれ,1985年に70歳で亡くなりました(ですので,今年は生誕100年,没後30年という節目にあたります)。欧米では日本以上によく知られた人物で,若いころから「天才」「神童」などと呼ばれ,多くの分野で新しい挑戦をして,人々をあっと驚かせてきました。
例えば20歳の時,ニューヨークのハーレム地区で,オール黒人キャストでシェークスピアの「マクベス」を上演して話題になります。また23歳の時には,ラジオドラマで火星人の襲来をニュース実況のように演出し,社会的なセンセーションを起こします。そして25歳の時,実在の新聞王をモデルにした映画『市民ケーン』(1941年)を製作・監督・脚本・主演し,映画の歴史に革命を起こしました。冒頭は当時のニュース映画を模倣して,虚構の人物があたかも本当に存在するかのように見せています。そして主人公の死から始まり,回想によって生前に遡るという複雑で斬新な語り方を採用しました。更に撮影は陰影に富み,画面の手前から奥まで焦点がくっきり合うという画期的な手法によるものでした。このようにウェルズは,演劇,ラジオ,映画あるいはテレビといった表現に関わる分野で多芸多才ぶりを発揮し,歴史に名を残しています。

『市民ケーン』撮影準備中のウェルズ
ところが,そんなウェルズがした仕事の全体像は,映画だけに限っても,日本はおろか,欧米でもいまだによく分かっていません。なぜでしょうか。
それは,ウェルズには,企画はされたが撮影されなかった映画や,撮影を始めたが資金難などによって中止になった映画,あるいは一度完成したが他の人によって形を変えられてしまった映画などが大量にあるからです。こんな映画監督は,世界の映画史を見渡してもウェルズの他にはいません。その意味で彼は「呪われた天才」です。
幸い,ドイツのミュンヘン映画博物館を始めとする世界のフィルムアーカイブ(映画保存機関)が,残された映画フィルムの断片などを資料とともに復元する努力を続けています。今回フィルムセンターが東京国際映画祭などと共同で開催する特集「生誕100年 オーソン・ウェルズ――天才の発見」は,そうした復元版を多く上映することによって,この「呪われた天才」の凄さに少しでも迫る,そんな試みです。ぜひ御来館ください。

『フォルスタッフ』のスナップ
- 企画名
- 生誕100年 オーソン・ウェルズ――天才の発見
- 主催
- 東京国立近代美術館フィルムセンター,東京国際映画祭,モーション・ピクチャー・アソシエーション(MPA),株式会社日本国際映画著作権協会
- 特別協力
- ミュンヘン映画博物館
- 開催期間
- 10月23日(木)~11月8日(日)
- 観覧料
- 一般1,300円/高校・大学生・シニア1,100円/小・中学生,障害者(付添者は原則1名まで)520円/キャンパスメンバーズ900円(学生),1,000円(教職員)
東京国立近代美術館フィルムセンター
〒104-0031 東京都中央区京橋3-7-6
- 問合せ
- 03-5777-8600(ハローダイヤル)
- 交通
- 東京メトロ銀座線京橋駅下車,出口1から昭和通り方向へ徒歩1分
都営地下鉄浅草線宝町駅下車,出口A4から中央通り方向へ徒歩1分
東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅下車,出口7より徒歩5分
JR東京駅下車,八重洲南口より徒歩10分 - ホームページ
-
http://www.momat.go.jp/