2015年12月4日
フィルムを運ぶ人たち
東京国立近代美術館フィルムセンター 主任研究員 とちぎあきら
美術館にとって,所蔵品の利活用を促進するということは,フィジカルなモノとしての美術品を,長期保存に最大限の注意を払いながら,より多く,より機動的に動かすこと,と言い換えられるでしょう。もちろん,映画フィルムと,これに関連する資料類を収集対象としているフィルムセンターでは,その複製物であるデジタルデータを提供することで,館外の諸団体に協力するということがないわけではありません。しかし,原則としては,所蔵品そのものを取り扱うことになりますので,そこにはモノを運ぶ行為が付いてくるわけです。
フィルムセンターでは,上映会や試写での使用,館外への提供,現像所における複製作業などのために,相模原分館(神奈川県)の映画保存庫に格納されているフィルムを出庫し,京橋(東京都)のセンターまで移動させるのを常としています。フィルムを専用台車に搭載し,委託業者の美術梱包車に積み込んで,定期的に相模原=京橋間を動かすのですが,その際に使用する台車には,映画保存庫と同様にフィルム缶を一缶ずつ横置きできる棚が備え付けられ,扉部分を除く内面には調湿ボードがはめ込まれており,移動に伴う急激な温湿度変化を抑えるようにしています。こうして,フィルムは低温低湿で保管されている相模原の保存庫から,室温環境を維持した京橋の一時保管庫まで運ばれるのです。

映画フィルム専用台車
館外へ発送する際には,コンテナバッグと呼ばれる厚手のビニール地で縫製されたバッグにフィルム缶を重ね置きして収め,同じビニール地のふたを閉めて,幅広の紐で縛って梱包します。このような梱包方法は,日本以外で見たことはありませんが,軽量でコンパクトなところが利点だと思います。

梱包されたコンテナバッグ
ところで,海外のフィルム・アーカイブや映画祭などでは,フィルムを運ぶ人たちのことを,traffic coordinatorとかprint coordinatorといった職名で呼んでいます。彼らの仕事は,単に出入庫や梱包,運送業者に集荷依頼をすることだけではありません。常にフィルムの所在状況を管理し,館内における移動や館外との発送・返却などの日程を把握していなくてはなりません。複数の会場を転送する場合には,移動計画を綿密に立てておく必要もあります。まさに「コーディネーター」と呼ぶにふさわしい仕事なのです。
フィルムは様々な目的に応じて,盛んに行き来するものですから,これを運ぶ人たちの技量が組織の評価を左右することもあるのです。
東京国立近代美術館フィルムセンター
〒104-0031
東京都中央区京橋3-7-6
(フィルムセンター相模原分館)
〒252-0221
神奈川県相模原市中央区高根3-1-4
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- 03-3561-0823,(相模原分館)042-758-0128
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- 毎週月曜日,上映準備・展示替期間,年末年始
- 観覧料
- 大ホール,小ホール
・所蔵作品上映:一般520円,大学生・高校生・シニア310円,小・中学生100円
・特別上映:一般1,050円,大学生・高校生・シニア840円,小・中学生600円
・共催上映:観覧料はその都度別に定めます。
展示室:()内は20名以上の団体料金
・一般210円(100円),大学生・シニア70円(40円),高校生以下及び18歳未満 無料
※シニアとは65歳以上の方です。
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東京国立近代美術館ホームページ
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