2017年1月19日
戦後ドイツの映画ポスター
東京国立近代美術館フィルムセンター主任研究員 岡田秀則
近年フィルムセンターでは,映画ポスターを単なる実務的な宣伝媒体ではなく,「映画と結びつきながらも独立したグラフィック・アート作品」と捉えた展覧会をたびたび開催しています。2009年以来,すでに無声時代ソビエト,戦後フランス,日本,チェコスロヴァキア,キューバを取り上げましたが,この「戦後ドイツの映画ポスター」展はその最新形と言えるでしょう。

『七年目の浮気』
(1955年/アメリカ/ビリー・ワイルダー監督)西ドイツ版
ポスター:フィッシャー=ノスビッシュ(1966年)
サントリーポスターコレクション(大阪新美術館建設準備室寄託)
この展覧会のいちばんの特徴は,展示空間を二つの区域,つまり西ドイツと東ドイツに分けていることです。ドイツにとって冷戦期は民族分断の苦い時代でしたが,二つの対照的な映画文化を生み出した時期でもありました。第二次大戦後,西ドイツでは映画製作が息を吹き返すとともにアメリカや西欧の映画が盛んに輸入され,東ドイツでは国営会社DEFA(デーファ)によって独自の社会主義的な映画文化が育ちました。特に「ベルリンの壁」の築かれた1961年以降は,新世代の台頭とともに東西それぞれの「ニュー・ジャーマン・シネマ」が生まれます。

『ジャンヌ・モローの思春期』
(1979年/フランス=西ドイツ/ジャンヌ・モロー監督)東ドイツ版
ポスター:エアハルト・グリュットナー(1981年)
フィルムセンター所蔵
そうした映画文化の分岐は,映画のポスターにも及びました。西ドイツでは,1950年代後半からアート系の映画配給会社がハンス・ヒルマン,フィッシャー=ノスビッシュら若手デザイナー集団「ノーヴム」のメンバーを積極的に起用し,映画の“詩性”を象徴的にえぐり出す鮮烈なポスターが制作されました。一方で東ドイツでは,1970年代から1980年代が映画ポスター芸術の最盛期でした。DEFAや国営配給会社プログレスの采配のもと,エアハルト・グリュットナーやオットー・クンメルトらが,比較的イラストレーションに重きを置いた,内省的ながら「宣伝」の枠に囚われない自在な表現を生み出します。

『M』
(1931年/ドイツ/フリッツ・ラング監督)西ドイツ版
ポスター:ヴォルフガング・シュミット(1966年)
ドイツ映画研究所所蔵

『チンボラソ山登頂』
(1989年/東ドイツ=西ドイツ/ライナー・ジーモン監督)東ドイツ版
ポスター:アルブレヒト・フォン・ボデカー(1989年)
フィルムセンター所蔵
この展覧会では,フィルムセンターと京都国立近代美術館の共催により,西ドイツ45点と東ドイツ40点,計85点の映画ポスターを通じて,“鉄のカーテン”の両脇で花開いた二つのグラフィズムを紹介します。実際に展覧会場にも「壁」を設置し,二つの映画文化,二つのグラフィックの道が示されています。
巡回展として,4月19日から6月11日まで京都国立近代美術館(コレクション・ギャラリー)でも開催されますので,関西の映画ファン,デザイン愛好家の方々も御期待ください。
東京国立近代美術館フィルムセンター
(住所)〒104-0031 東京都中央区京橋3-7-6
- 問合せ
- 03-5777-8600(ハローダイヤル)
- 交通
- 東京メトロ銀座線「京橋」駅下車,出口1から昭和通り方向へ徒歩1分
都営地下鉄浅草線「宝町」駅下車,出口A4から中央通り方向へ徒歩1分
東京メトロ有楽町線「銀座一丁目」駅下車,出口7より徒歩1分
JR「東京」駅下車,八重洲南口より徒歩10分 - 開催期間
- 2016年11月15日(火)~2017年1月29日(日)
毎週月曜日,12月26日(月)―1月3日(火)は休室 - 開室時間
- 火曜日~日曜日,11:00~18:30(入室は閉館30分前まで)
- 観覧料
- 一般210円/大学生・シニア70円/高校生以下及び18歳未満,障害者(付添者は原則1名まで),
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- http://www.momat.go.jp/