2017年4月12日
シャセリオー展―19世紀フランス・ロマン主義の異才
国立西洋美術館 主任研究員 陳岡めぐみ
今回の展覧会は,19世紀フランス・ロマン主義の異才テオドール・シャセリオー(1819~1856)の芸術を日本で初めて本格的に紹介するものです。

テオドール・シャセリオー《自画像》
1835年 油彩・カンヴァス
ルーヴル美術館
Photo©RMN-Grand Palais (musee du Louvre)
/ Jean-Gilles Berizzi / distributed by AMF
11歳でアングルに入門を許され,16歳でサロンにデビュー,やがて師の古典主義を離れ,ロマン主義の最後を飾るにふさわしい叙情と情熱をたたえた作品の数々を残して,1856年に37才で急逝したシャセリオーはまさに時代を駆け抜けた才能でした。また,20年という活動期間ながら,神話や聖書,文学,肖像,東方主題,寓意画等,多彩な主題やテーマによる作品の数々を残していますが,いずれの作品にも,どこかメランコリックでもあり,ノスタルジックでもあるような独特の空気が漂っています。それは,カリブ海のイスパニョーラ(サン=ドマング)島生まれというルーツや,父親不在の寂しさ,師アングルとの芸術的葛藤といった背景を持ちながら,大人に肩を並べて10代から独自の芸術の道を探求し続けたシャセリオーという画家自身が,ある種の異質さや疎外感,あるいは異邦性を内に持っていたからかもしれません。

テオドール・シャセリオー《放蕩息子の帰還》
1836年 油彩・カンヴァス
ラ・ロシェル美術館
© musees d'Art et d'Histoire de La Rochelle, Max Roy
展覧会では,画家の代表作とされながら,1871年のパリ・コミューンで破壊された会計検査院の壁画をはじめとする重要な建築装飾の仕事にも光をあてつつ,ルーヴル美術館所蔵品を中心にその作品を概観します。16歳を迎える頃に描いた自画像から,中期の代表作《アポロンとダフネ》,最晩年の《東方三博士の礼拝》まで,絵画や素描,版画,写真や資料などによってシャセリオーの画業全体を紹介するとともに,彼から影響を受けたギュスターヴ・モローやピュヴィス・ド・シャヴァンヌ,オディロン・ルドンらの作品もあわせて,総数約110点を展示し,ロマン主義から象徴主義への展開,そしてオリエンタリスムの系譜の中でその芸術の意義を再考します。

テオドール・シャセリオー《カバリュス嬢の肖像》
1848年 油彩・カンヴァス
カンペール美術館
Collection du musee des beaux-arts de Quimper
今日ではフランス・ロマン主義を代表する画家に数えられるシャセリオーですが,フランスでも回顧展の開催は1933年と2002年を数えるのみです。今回の展覧会は,本国フランスでさえ,その作品をまとめて見る機会が少ないシャセリオーの作品世界を知る絶好の機会となることでしょう。

テオドール・シャセリオー《東方三博士の礼拝》
1856年 油彩・カンヴァス
プティ・パレ美術館
© Petit Palais/Roger-Viollet
国立西洋美術館
(住所)〒110-0007
東京都台東区上野公園7番7号
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- 当日:一般1,600円,大学生1,200円,高校生800円
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