2017年9月1日
陶匠 辻清明の世界―明る寂びの美
東京国立近代美術館 工芸課長・唐澤昌宏
辻清明(1927-2008)は,1955年に東京・多摩に登窯を築いて以降,関東の地を拠点にしながらも信楽の土を用いた無釉焼き締め陶を活動の中心とした陶芸家です。古美術の蒐集や芸術家との交流を通して感性を磨き,「明る寂び」と呼ばれる信楽特有の美の世界を構築しました。工芸館開館40周年と,辻の没後10年を記念して開催する本展では,辻の代表的な作品約150点とともに,きびしい目で選び抜かれた愛蔵品40点,更には,辻と交流した同時代の芸術家の作品約20点も併せて紹介し,辻清明という陶芸家の創作の軌跡を振り返ります。
辻清明《信楽大合子 天心》1970年 東京国立近代美術館蔵
東京・世田谷に生まれた辻は,父の影響で幼い頃から古美術に興味を持ちます。父の蒐集品に触発されたのがきっかけとなり作陶を始め,轆轤師に轆轤をはじめとする陶芸の基礎を学びました。1941年には自宅に「辻陶器研究所」の看板を掲げ,早くも陶芸家への道を歩み出します。白磁,天目,染付などを手掛けていた当時,自作の《白磁面取香炉》(本展出品)を持って富本憲吉や板谷波山のもとへ通い教えを受けるなど,果敢な行動をとっています。
辻が信楽などの焼き締め陶に興味を抱いたのは,東洋陶磁の研究者であった小山冨士夫に,中世期から窯の煙を絶やすことなく続く六古窯(越前・瀬戸・常滑・信楽・丹波・備前)にまつわる話を聞いたことが始まりでした。そして,山口諭助の著書『美の日本的完成』と出合い,信楽特有の美=「明る寂び」という美意識に触れ,その後の活動の指針としました。辻はその言葉に,「優美でのびやかで,夜明けの空に似て明るく澄んだ気配」を感じ取り,作品には,侘びた風情の中に明るい華やかさをたたえた美しさを求めていきました。
辻清明《信楽自然釉茶盌》1992年 東京国立近代美術館蔵
辻清明《信楽耳付水指》1993年 東京国立近代美術館蔵
本展の出品作品は,1970年代から2006年の最後の窯までが中心で,「明る寂び」という言葉を具現化した,まさに円熟の技と美をみせる作品群となります。茶碗や水指,茶入,花生などの茶陶をはじめ,パイナップル缶をヒントにした花生や和釘から着想を得た掛花入,帽子や動物をかたどった作品など,ユーモアと遊び心が満載です。また,やきものの造形的な特徴をガラスで表現した鉢や,のびやかな筆致が辻の人となりを感じさせる書なども展示紹介します。
あわせて,辻が生前に蒐集したコレクションの中から,創作の傍らに常にあり,その発想の拠り所となった古信楽や古唐津をはじめ,近世期の日本の漆器,古代の土器などの古美術40点も展示します。辻が何を見て,何を感じ取っていたかを知っていただく機会になると思います。
辻清明《硝子蕪鉢》1991年 東京国立近代美術館蔵
辻清明《書 アリのまま》1997年 個人蔵
《彩陶鳥形笛》紀元前1世紀/ペルー 愛知県陶磁美術館蔵
ところで,辻の工房には薪を燃料にした登窯が築かれていました。都心にほど近い場所では珍しいことから,陶芸家に限らず,画家や作家など多くの芸術家が訪れるようになりました。その中には,山口長男やサム・フランシスのように,辻の陶房で作陶を行い,陶の作品にチャレンジした画家も現れました。また辻は,全国の窯場を巡り,その土地で知り合った陶芸家と交流して,作域を広げることも積極的に行いました。本展では,これら辻との交流を示す芸術家の作品も含め,辻の幅広い活動を紹介します。
※辻清明の「辻」の字は点一つのしんにょうです。
※写真撮影:藤森武
東京国立近代美術館工芸館
(住所)〒102-0091 東京都千代田区北の丸公園1-1
- お問合せ
- 03-5777-8600(ハローダイヤル)
- 交通
- 東京メトロ東西線「竹橋駅」1b出口徒歩8分,東京メトロ東西線,半蔵門線,都営新宿線「九段下駅」2番出口徒歩12分
- 開館時間
- 10:00~17:00(入場は閉館30分前まで)
- 休館日
- 毎週月曜日(9/18,10/9は開館),9/19,10/10
- 観覧料
-
一般\600,大学生\400,
高校生以下及び18歳未満,障害者手帳をお持ちの方とその付添い者(1名)は無料。 - ホームページ
- http://www.momat.go.jp/