2017年12月5日
北斎とジャポニスム HOKUSAIが西洋に与えた衝撃
国立西洋美術館長 馬渕明子
ジャポニスムとは,19世紀後半に日本文化からヒントを得た西洋の幅広い分野の芸術家たちが展開した,新しい創造活動を意味する言葉です。近代美術の扉を開くきっかけともなったその現象を考察するとき,繰り返し語られるのが浮世絵師,葛飾北斎です。
東京五輪開催を3年後に控え,日本文化に注目が集まる2017年,北斎は国内外の展覧会やマスコミなどで頻繁にとりあげられています。そのさなかに開幕した「北斎とジャポニスム」が提示するのは,西洋近代美術の展開という視点です。北斎の錦絵や版本と西洋美術の名作,およそ330点を六つの章に構成し,西洋に起こった北斎現象とその結実を掘り下げていきます。
一章では,北斎が西洋に知られていった過程を辿ります。紀行本などの挿絵に利用された例をはじめとし,彼を称賛する批評家の文章や浮世絵・版本のコレクション,模写の例をお見せします。
二章では,人物表現を取り上げます。ドガやカサット,トゥールーズ=ロートレックといった著名な画家たちが,『北斎漫画』にみられる,ありのままで,ときに滑稽な人物表現をどのように作品にとりいれたのか,対比させながら紹介します。

葛飾北斎『北斎漫画』十一編(部分)
刊年不詳 浦上蒼穹堂

エドガー・ドガ《踊り子たち、ピンクと緑》
1894年 パステル,紙(ボード裏打)
吉野石膏株式会社(山形美術館寄託)
三章は動物表現です。西洋において動物は狩猟の対象であり,多くの場合,恐れや力の表象とみなされてきました。愛らしい小動物や身近な昆虫などに目を向け,生き生きと描く北斎の表現は新鮮な驚きと魅力にあふれていました。
四章は植物です。西洋絵画における花は,自然から切り取られ室内の花瓶にいけられた,限りある命の静物でした。一方,日本では戸外に赴いて,野の花や草をあふれる季節感とともに親しみを込めて描いてきました。中でもデザイン性の高い北斎の植物画は西洋の人々の心を強くとらえたのです。
五章は風景。非対称や俯瞰といった浮世絵の多様な構図,すだれ効果で遠景を見せる風景の捉え方などは,伝統的な遠近法による画一的な写実表現を大切にしてきた西洋の目には斬新に映りました。

葛飾北斎『富嶽百景』二編「竹林の不二」
1835(天保6)年 浦上蒼穹堂

クロード・モネ《木の間越しの春》
1878年 油彩,カンヴァス
マルモッタン・モネ美術館,パリ
Musée Marmottan Monet, Paris
Photo: Bridgeman Images /
DNPartcom
結びの六章では,代表作『富嶽百景』や「冨嶽三十六景」の富士山の連作,なかでも北斎のイコンともいうべき≪神奈川沖浪裏≫の大波がどのように受容されたかを考えます。

葛飾北斎《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》
1830-33(天保元-4)年頃 横大判錦絵
ミネアポリス美術館
Minneapolis Institute of Art,
Bequest of Richard P. Gale
74.1.230
Photo: Minneapolis Institute of Art

カミーユ・クローデル《波》
1897-1903年
オニキス,ブロンズ
ロダン美術館,パリ
Paris, musée Rodin
© musée Rodin
(photo Christian Baraja)
豊富な展示作品を味わい,見比べながら辿るのは楽しいものです。そうするうち西洋というフィルター越しに北斎の魅力を再発見するとともに,ブームや異国趣味を超えて新たな芸術を生み出した,ほとばしる西洋芸術のエネルギーをも感じていただけるでしょう。
国立西洋美術館
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