2018年10月26日
ルーベンス展―バロックの誕生
国立西洋美術館 主任研究員 渡辺晋輔
本展は17世紀を代表する画家,ペーテル・パウル・ルーベンス(1577-1640)を紹介するものです。ルーベンスの名を聞いてピンと来なくとも,アニメ『フランダースの犬』の最終回,疲労困ぱいしたネロ少年と愛犬パトラッシュがアントウェルペン聖母大聖堂で息絶える前に見つめた絵の作者と言えば,思い出される方が多いでしょう。今回展示する作品は約70点,うち40点以上がルーベンスによる油彩・素描作品です(一部工房作や帰属作を含む)。日本の展覧会で,これほどの数のルーベンス作品が一度に展示されたことはありませんでした。本展は厳選された作品により,この画家の芸術を理解する稀有な機会を提供します。

ペーテル・パウル・ルーベンス《聖アンデレの殉教》
1638-39年 油彩/カンヴァス
マドリード,カルロス・デ・アンベレス財団
Fundación Carlos de Amberes, Madrid
本展の特徴は,ルーベンスを「イタリアの画家」と見なすことです。普通,彼はフランドルの画家とされます。フランドルとは現在のベルギーやフランス北部にまたがる地域のことで,当時はハプスブルク家スペイン領でした。実際,彼はフランドルの主要都市アントウェルペンで青年期を過ごして画家として修業し,後に工房を構えたのもこの町でした。しかし,その人生や芸術をつまびらかに見るならば,イタリアやこの地の美術への並々ならぬ愛着を知ることになります。

ペーテル・パウル・ルーベンス《マルスとレア・シルウィア》
1616-1617年 油彩/カンヴァス
ファドゥーツ/ウィーン,リヒテンシュタイン侯爵家コレクション
©LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz-Vienna
ルーベンスは修業を終えた後イタリアへと旅立ち,この地(特にローマ)で数年間活動しました。彼はイタリアで古代彫刻やルネサンスの芸術家たち,カラヴァッジョら同時代の画家たちの作品を熱心に研究し,自らの芸術を完成させます。帰国後も彼は滞在中に描いた模写を終生大事にして制作に役立て,手紙を書くときはほぼいつもイタリア語を用いました。心の中には常にこの南の国があったのです。

ペーテル・パウル・ルーベンス《エリクトニオスを発見するケクロプスの娘たち》
1615-16 年 油彩/カンヴァス
ファドゥーツ/ウィーン,リヒテンシュタイン侯爵家コレクション
©LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz-Vienna
本展は全体を7つの章に分け,それぞれのテーマのもと,ルーベンスの絵を古代美術やイタリア・ルネサンスの作品,次世代のイタリアの芸術家たちの作品と比較します。それにより,ルーベンスの芸術をいわば立体的に把握していただければと考えています。ルーベンスは非常に幅の広い人で,画家であると同時に大工房を経営する企業家,洗練された教養人,そして有能な宮廷人としての側面も持ち,心優しい家庭人でした。これほど多面性のある芸術家は,美術史を見渡してもそうはいません。そして彼の場合,作品のひとつひとつに活動の広がりを感じ取ることができるのです。是非作品の前に立ち,その魅力に引き込まれてください。
国立西洋美術館
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