2019年2月14日
世紀末ウィーンのグラフィック
デザインそして生活の刷新にむけて
京都国立近代美術館 特定研究員 本橋仁
「時代にはその芸術を,芸術にはその自由を」。これは,1897年のウィーンで,芸術がそれまでおかれていた権威的で堅苦しくなっていた状況を打開するために設立された,ウィーン分離派が大事にした言葉です。その自由な気風の中で活躍した多くの芸術家たちは,のちに「世紀末ウィーン」と呼ばれる独自の芸術を華ひらかせました。
2019年1月から,京都国立近代美術館で開催される「世紀末ウィーンのグラフィック デザインそして生活の刷新にむけて」では,この世紀末ウィーンの時代に出版された版画や挿絵本とその原画,あるいはブックデザインなど,様々な方法で生み出されたグラフィック作品を紹介するものです。

ベルトルト・レフラー(編)
『ディ・フレッヒェ(平面) ― 装飾デザイン集(新シリーズ)第II巻』1910/11年より
先に紹介したウィーン分離派は,正式名称を「オーストリア造形芸術家協会」といい,芸術家のグスタフ・クリムト(Gustav Klimt, 1862-1918)を会長として設立されました。既存の芸術家団体による歴史様式を折衷(違う時代,国の文脈にある様式を組み合わせたデザイン)しただけの絵画や工芸など,旧態依然(古い組織に固執してしまい動かない)とした方式に反発して,「芸術をあらゆる人々のためのもの」にできないかと考えたのです。そして彼らは,絵画や彫刻といったいわゆる見ることに特化したような「純粋芸術」だけでなく,生活で何かに使うものにまで芸術が浸透した「応用芸術」として,多くのグラフィック作品を残しました。

『キャバレー〈フレーダーマウス〉上演本』第2号表紙
(表紙デザイン:モーリツ・ユンク)1907年
本展は,4つの章からなりますが,なかでも日本にいる私たちにと関係が深いのが,3つ目の章である「版画復興とグラフィックの刷新」です。当時ヨーロッパにおいて,表現手法としての木版画は,より精緻な表現ができる銅版画に取って代わられていました。しかし19世紀後半に,日本の多色木版画が知られるようになると一大ブームを巻き起こします。この多色木版画こそ,まさに日本の浮世絵です。それにより一度は銅版画に主役の座を奪われた木版画が,改めて脚光を浴びることになるのです。こうして製作された木版画は,ウィーン分離派の機関紙である『ヴェル・サクルム』を始め,多くの美術雑誌や展覧会で紹介されました。また,絵などを購入するよりも敷居が低いため,ウィーンの市民が購入することもでき,大事に額にいれて,部屋に飾ったりもしていたようです。こうして浮世絵のブーム,それから木版画の生活への浸透により,まさにウィーン分離派の目指した生活の刷新が行われんとしていたのです。

ルートヴィヒ・ハインリヒ・ユンクニッケル《三羽の青い鸚鵡》
(連作「シェーンブルンの動物たち」より) 1909年
本展は,当館が2015年に購入したコレクションの全貌を,初めて紹介するものです。300点にも及ぶ膨大なグラフィック作品に加えて,武蔵野美術大学が所蔵するリヒャルト・ルクシュの石膏彫像と,建築家アドルフ・ロースの家具も加え,世紀末ウィーンの息吹と魅力をお伝えします。是非,お越しください。
京都国立近代美術館
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