2019年6月13日
クリスチャン・ボルタンスキー - Lifetime
国立新美術館 主任研究員 山田由佳子
本展は,フランスを代表する現代作家,クリスチャン・ボルタンスキーの50年にわたる活動を紹介する回顧展です。
ボルタンスキーはナチスの占領から解放されたばかりのパリで生まれました。ユダヤ系の父を持つボルタンスキーは,少年時代に両親やその友人たちから戦争の話をよく耳にしたそうです。この経験は芸術活動をする上で大きな影響を作家に与え,長いこと死や人々の不在やその痕跡をテーマに作品を制作しています。
ボルタンスキーが創作活動を始めたのは1960年代末でした。フィルム制作を経て,1970年代以降は社会学へ関心を持ちながら,友人のアルバムに収められた写真や雑誌記事に掲載された写真を用いるようになります。
1980年代に入るとボルタンスキーは大きな転機を迎えます。1985年頃,ボルタンスキーは展覧会の空間構成に関心を持つようになりました。そして,教会にふらっと立ち寄るような感覚を覚えるような鑑賞の空間を作りたいと思うようになります。そして,光を積極的に用いた作品を制作し,その代表作が〈モニュメント〉のシリーズです(図1)。

《モニュメント》1986年 作家蔵
展示風景:「クリスチャン・ボルタンスキー-Lifetime」
国立国際美術館(2019年)
写真:CROSS TECH
「記念碑」を意味するこの作品にも,ボルタンスキーはどこかで撮られた写真を再利用し,被写体の顔の周りに電球を配することで,ビザンチンのイコンを思わせる雰囲気を与えています。この写真とランプの組合せは,1980年代後半から1990年頃まで続きます。この時期,作家は両親を亡くし,この頃からユダヤ性に関する問題にも触れるようになりました。そして,普遍的な死を直接のテーマとする作品も積極的に制作するようになったのです。
そして,2000年以降は自らの老いと向き合い,作家自身の生の時間を主題にした作品も発表するようになります。《合間に》(2010年)は,7歳から65歳までのボルタンスキーの顔が変化する様子を映し出し,《最後の時》(2013年)はボルタンスキーが生まれてからの時間を秒単位で示しています(図2)。

(左)《合間に》2010年,(右)《最後の時》2013年
共に作家蔵
展示風景:「クリスチャン・ボルタンスキー-Lifetime」
国立国際美術館(2019年)
写真:CROSS TECH
本展は初期のフィルム作品から最新作までを紹介する回顧展ですが,時代順に作品を並べず,展覧会の空間がひとつの作品となるように,作家自身が国立新美術館の空間に合わせて作品を組み合わせます。ボルタンスキーの考えに従うならば,展覧会も消滅してしまうことを運命づけられた作品と言えるでしょう。会期中しか見られないひとつの作品の中に入り,ボルタンスキーの作り出す世界を体験していただければ幸いです。
国立新美術館
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前売/団体(20名以上):1,400円(一般) 1,000円(大学生) 600円(高校生)
※団体券は国立新美術館でのみ販売
※中学生以下及び障害者手帳を御持参の方(付添いの方1名を含む)は入場無料
※8月10日(土)~8月12日(月・祝)は高校生無料観覧日(学生証の提示が必要) - ホームページ
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https://boltanski2019.exhibit.jp/