2019年11月22日
オリンピック記録映画特集―より速く,より高く,より強く
国立映画アーカイブ主任研究員 岡田秀則
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催が近づいてきました。公式記録映画の監督に,世界的な評価を得ている河瀨直美監督が就任したことは既に大きく報道されましたが,このことは実は大きな意味を持っています。それはこの東京大会が,「記録映画」を撮ることに明確な価値を置いたということです。例えば近年の大会を,テレビでは釘づけになって観たけれども,映画作品として記憶している人はまずいないでしょう。そんな時代の流れにあって,かつて1964年東京大会が市川崑監督の傑作『東京オリンピック』を生んだように,来年の大会は,「映画」という表現形式でも世界のアスリートたちの躍動を捉えようという原点に戻ったのです。

1968年グルノーブル冬季大会 アルペンスキー男子大回転 ジャン=クロード・キリー選手
© 1968 / Comité International Olympique (CIO)
国際オリンピック委員会(IOC)が,記録映画の製作を各大会に義務づけたのは1930年のことで,各国の名監督たちが,多数のキャメラマンや録音・編集技師などのスタッフを従えてこの難事業に挑戦してきました。つまり市川監督のほかにも,レニ・リーフェンシュタール(1936年ベルリン夏季大会),クロード・ルルーシュ(1968年グルノーブル冬季大会[非公式映画]),篠田正浩(1972年札幌冬季大会),イム・グォンテク(1988年ソウル夏季大会),カルロス・サウラ(1992年バルセロナ夏季大会)といった一線級の映画作家の活躍の場となってきたのです。

1948年ロンドン夏季大会 馬術競技をテクニカラーカメラで撮影する
© 1948 / Comité International Olympique (CIO) / RANK, J. Arthur
その視点は様々です。華やかな開会式・閉会式や勝者たちの栄光を讃えるのはもちろんですが,競技結果だけではない生の人間にも視線は注がれます。転倒した陸上選手やコースアウトしたスキーヤーも主人公ですし,時には選手の心のうちまでも捉えようとする姿勢も見られます。筆者は,あるマラソン選手が補給所でジュースを一気に3杯飲んだ『東京オリンピック』の何げない瞬間を忘れることができません。
国立映画アーカイブは,このオリンピック記録映画の豊かな遺産に着目しました。今回の上映作品は,日本が初参加した1912年ストックホルム大会から1998年長野大会までの23作品で,その大半がIOCによるオリンピック記録映画の復元プロジェクトで美しく甦った映画です。

1912年ストックホルム大会男子400mリレー
© 1912 / Comité International Olympique (CIO)
いま,多くのスポーツ実況は,その観方まで視聴者を誘導してしまう形になりがちです。しかしこれらドキュメンタリーには,映画作家としてのユニークな表現はあっても,スポーツ自体を純粋に眺められる風通しの良さがあります。そんな自由さもオリンピック映画の魅力ではないでしょうか。
国立映画アーカイブ
(住所)〒104-0031 東京都中央区京橋3-7-6
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JR東京駅下車,八重洲南口より徒歩10分
- 開館時間
- 会期:2019年11月26日(火)~12月22日(日)
- 休館日
- 毎週月曜日
- 観覧料
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一般520円/高校・大学生・シニア310円/小・中学生100円/
障害者(付添い者は原則1名まで),キャンパスメンバーズは無料
前売り券等,詳細についてはホームページを御覧ください。 - ホームページ
- https://www.nfaj.go.jp/