2020年1月17日
パッション20 ― 今みておきたい工芸の想い
東京国立近代美術館主任研究員 今井 陽子
工芸を「パッション」の語とならべて考えることは,もしかしたらふだんはあまりないかもしれません。なぜなら工芸に注がれるパッションは姿かたちや質感にすっかり溶け込んで,むしろ背景の諸事情をいちいち分析する間もなく味わえるよう整えられてきたからです。しかし何を選び,未来へとつなげるのかを考える今,工芸に託されてきた知恵と愛とを見過ごしてしまったらもったいない!
今年はいよいよオリンピックイヤー。世界との出合いは国際的な視野を広げるだけでなく,私たちの内側に目を向ける好機でもあります。日本の近代は工芸をとおして何を感じ,想いを託してきたでしょうか。作家の言葉や活動・出来事から20を抽出し,それぞれの局面に浮かび上がるパッションを御紹介します。
志村ふくみ《紬織着物 水瑠璃》1976
本展は20のキーセンテンスを5章に分けて展観します。第1章のテーマは「日本人と『自然』」。本稿では後期展示の志村ふくみ作品を御紹介しましょう。志村はまゆから糸を引きながら,絶えず震えるはかなさと切れずに1本につながる強さとがないまぜとなった触覚に,蚕の生命の痕跡をたどります。藍の青の深さと広がりに,かつて水辺の光景に息をのんだ記憶が呼び覚まされます。
第2章のタイトルは「オン・ステージ」。壁から突き出た巨大な赤い手ぶくろ。国際ビエンナーレに出品されて以来,見る人に驚きを与えてきました。しかしダラリと垂れ下がる姿はどこかユーモラスでもあるような・・・。世界のひのき舞台で日本人作家が意識した染織における日本的なものへの創意とともに,明治期に国を挙げて世界へと向かっていった《十二の鷹》のパッションを対照します。
小名木陽一《赤い手ぶくろ》1976
3章から5章では,昭和初期から今日まで,作家たちがそれぞれの視点から考えた「工芸とは?」という事柄を考えます。例えば四谷シモンの《解剖学の少年》は,タイトルのとおり腹部を大きく広げて文字通り内臓された諸器官を見せています。そんな作品を皆さんはどう御覧になるでしょう?怖い?でもうるんだ目の視線の先が気になる。可愛い?人工物でありながら情念の器としてその身を呈してきた人形と人との関係性を根源的に見つめた作品です。
東京国立近代美術館工芸館
東京での工芸館での展観はこれが最後です。のちに重要文化財に指定した明治の洋館を通して伝えたかった文化行政のパッションも併せて御堪能ください!
東京国立近代美術館 工芸館
(住所)〒102-0091 東京都千代田区北の丸公園1-1
- 問合せ
- 03-5777-8600(ハローダイヤル)
- 交通
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東京メトロ東西線竹橋駅 1b出口徒歩8分
東京メトロ東西線,半蔵門線,都営新宿線「九段下駅」(2番出口)徒歩12分
- 開館時間
- 10:00~17:00(入場は閉館30分前まで)
- 休館日
- 月曜日(1/13,2/24は開館),年末年始(12/28(土)~2020/1/1(水・祝)),1/14(火),2/25(火)
- 観覧料
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一般250円(200円),大学生130円(60円)
※( )内は20名以上の団体料金。消費税込。
○高校生以下及び18歳未満,65歳以上は無料 - ホームページ
- https://www.momat.go.jp