2020年8月25日
内藤コレクション展III
「写本彩飾の精華 天に捧ぐ歌,神の理」
国立西洋美術館 主任研究員 中田明日佳
印刷技術の存在しなかった中世ヨーロッパにおいて,写本は人々の信仰を支え,知の伝達を担う重要な媒体でした。羊や子牛など動物の皮をなめして作った紙に人の手でテキストを書き写し,膨大な時間と労力をかけて制作される写本は非常な贅沢品であり,特権的立場にある人々のみが所有できるものでした。彼らの目を喜ばせるべく,テキストの区切りやページの余白には華やかな彩飾が施され,それらは今日も褪せない輝きを保ち続けています。
こうした彩飾写本の世界に魅了され,零葉,つまり本から切り離された1枚1枚のリーフ(紙葉)を中心にその収集を続けてこられたのが,筑波大学・茨城県立医療大学名誉教授の内藤裕史氏(1932-)です。当館では,この貴重なコレクションを2016年春に御寄贈いただいたのをきっかけに「内藤コレクション展」を3回シリーズで開催してまいりました。最終回となる本展では,フィナーレにふさわしく,とりわけ華やかで美術史的評価の高い作品を多数御紹介いたします。
今回の出品作の核のひとつとなるのは,聖歌集に由来するリーフです。天に捧げる歌を記した一連のリーフは,グループで参照されたために大型の判型をもつものも多く,その大きく華やかな挿絵や装飾は本展の見どころとなっています。

《聖務日課聖歌集零葉:イニシアルQの内部に「書物と剣を手にした聖パウロ」》
イタリア,ピサ,1330–40年頃
彩色,金,インク/獣皮紙,内藤コレクション

《『グラティアヌス教令集』零葉:司教に訴え出る巡礼者》
フランス,トゥールーズ,1320年頃
彩色,金,インク/獣皮紙,内藤コレクション(長沼基金)
もうひとつの核となるのは,教会法令集由来のリーフです。教会法令集とは,教父文書,公会議決議,教皇令を中心に,カトリック教会が,その組織運営や信徒たちの信仰,生活に関して定めた法文を所収した書物のことですが,それらのリーフにおいては,余白にびっしりと記された注釈に圧倒されるでしょう。濃密な文字の列からは,神の理を明らかにしようとした学者たちの熱意が彷彿されます。
なお,本展の出品作の中には,長沼昭夫氏より西洋美術振興財団へ御寄付いただいた基金で購入したリーフも含まれます。長沼氏は,日本の美術館の西洋中世美術コレクションを拡充すべきであるという内藤氏の思いに賛同され,支援を寄せてくださいました。内藤氏,長沼氏の御厚意に感謝するとともに,本展の開催に御協力くださいました各位にも心より御礼申し上げます。
国立西洋美術館
(住所)〒110-0007 東京都台東区上野公園7-7
- 問合せ
- 03-5777-8600(ハローダイヤル)
- 交通
-
JR上野駅下車(公園口)徒歩1分
京成電鉄京成上野駅下車 徒歩7分
東京メトロ銀座線,日比谷線上野駅下車 徒歩8分
- 会期
- 2020年9月8日(火)~2020年10月18日(日)
- 開館時間
- 9:30~17:30
毎週金・土曜日:9:30~21:00
※入館は閉館の30分前まで - 休館日
- 月曜日(ただし9月21日(月・祝)は開館),9月23日(水)
※予告なく変更になる場合があります。最新情報は展覧会HPで御確認ください。 - 観覧料
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当日:一般500円(400円),大学生250円(200円)
※本展は常設展の観覧券,または「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」の観覧券で御覧いただけます。
※( )内は20名以上の団体料金
※高校生以下及び18歳未満,65歳以上は無料
(入館の際に学生証または年齢の確認できるものを御提示ください)
※心身に障害のある方及び付添者1名は無料(入館の際に障害者手帳を御提示ください) - ホームページ
-
https://www.nmwa.go.jp/