2021年3月25日
「あやしい絵」の秘密に迫る
中村麗子(東京国立近代美術館主任研究員)
皆さんは「あやしい絵」と聞いてどのような絵を思い浮かべますか?ここでは,幕末から大正時代に作られた,一目見たらギョッとするようなグロテスク,エロティックな作品,絵の中の人は何を考えているのか等,なぜか気になるミステリアスな作品を「あやしい絵」と呼んで,その誕生の秘密に迫ります。
まずこちらの月岡芳年の浮世絵。腕や手から血を流し唇を真っ青にした青年が兵糧を食べています。怪我をしているのに落ち着き払っているのはなぜでしょう?芳年は,まっすぐな眼差しが表すように,決して敵に負けまいとする青年兵の気概を描いているのです。ちょうどこの絵が世に出る前,戊辰戦争が起こりました。戦に参加した兵士らと同年代の芳年は,この絵を通して,勇敢に敵に立ち向かう兵士への尊敬の念と共感を表したのです。
月岡芳年《魁題百撰相 鈴木孫市》1868-69年,
町田市立国際版画美術館蔵(3月23日~4月18日に展示)
青木繁の絵は,2人の女性が倒れた裸の男性を介抱している場面のようです。よく見ると右の女性は乳房を出しています。一体何をしようとしているのでしょうか。この絵は『古事記』の一場面。キサガイヒメが削った貝殻の粉をウムギヒメが水で溶いて乳のようにし,焼け死んだオオナムチノミコトに塗るとオオナムチノミコトがよみがえるという話です。青木は神話を自由に解釈して,貝殻粉の水を乳に置き換えて表しました。そのため右のウムギヒメは乳房を出しているのです。
青木繁《大穴牟知命》1905年,
石橋財団アーティゾン美術館蔵(通期展示)
上村松園の絵は花かごを持つ美しい女性を描いていますが,よく見ると着物は肩からずり落ち,目はうつろです。彼女の身に何があったのでしょうか。この女性は謡曲の「花筐」に出てくる照日前です。彼女は高貴な人から寵愛されていましたが,彼が天皇に即位することが決まり離別してしまいます。悲しみのため,照日前は心を病んでしまったのでした。
上村松園《花がたみ》1915年,
松伯美術館蔵(4月20日~5月16日に展示)
この《横櫛》という絵に描かれた女性は,綺麗ですがどことなく妖艶です。彼女は何者なのでしょうか。この女性は河竹黙阿弥作「切られお富」の悪女お富をもとに描かれました。美しく化粧した女性はうるんだ目で微笑みながらこちらを見つめます。壁の咲ききった花の絵は,成熟した彼女の色香を示しているかのようです。着物の襟の天女,裾の模様の炎も,天国と地獄という悪女の持つ二面性を暗示しているようです。
甲斐庄楠音《横櫛》1916年頃,
京都国立近代美術館蔵(通期展示)
いかがでしたか。展覧会「あやしい絵展」では,他にも様々な「あやしい絵」を展示しています。是非会場で気になる一点を見つけてください。お待ちしています!
「あやしい絵展」2021年3月23日(火)~5月16日(日)
東京国立近代美術館
(住所)〒102-8322 東京都千代田区北の丸公園3-1
- 問合せ
- 050-5541-8600(ハローダイヤル)
- 交通
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東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分(美術館に駐車場はありません)
- 開館時間
- 9:30~17:00(金・土は~20:00)入場は閉館30分前まで
- 休館日
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月曜日(3月29日,5月3日は開館),5月6日(木)
*開館日時は変更になる場合があります。御来館前に美術館ホームページ等で最新情報を御確認ください。 - 観覧料
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観覧料 一般¥1,800 大学生¥1,200 高校生¥700
*いずれも消費税込。
*中学生以下,障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。それぞれ入館の際,学生証等の年齢のわかるもの,障害者手帳等を御提示ください。
*本展の観覧料で入館当日に限り,所蔵作品展「MOMATコレクション」(4-2F),コレクションによる小企画「幻視するレンズ 」(2F ギャラリー4)(いずれも10:00開場)も御覧いただけます。 - ホームページ
- https://www.momat.go.jp