2021年5月12日
ピピロッティ・リスト:Your Eye Is My Island
-あなたの眼はわたしの島-
京都国立近代美術館主任研究員 牧口千夏
最近,女性の社会的地位をめぐる議論がニュースを賑わせています。国連が掲げる17の目標「持続可能な開発目標(SDGs)」では,「ジェンダーの平等を達成し,すべての女性と女児のエンパワーメントを図る」ことがうたわれています。美術館にとっても,これまで男性に比べて取り上げる機会が限られていた女性アーティストの活動を積極的に紹介することは,多様性を認め合う社会を実現する上でひとつの重要な視点です。「ピピロッティ・リスト:Your Eye Is My Island -あなたの眼はわたしの島-」展は,こうしたジェンダーバランスについての美術館の意識変化を反映したもので,当初はオリンピック・パラリンピックの開催にあわせて構想されました。
《忍耐》 2016年
シングルチャンネル・ヴィデオ・インスタレーション
チューリヒ美術館での展示風景 Photo: Lena Huber
© Pipilotti Rist, All images courtesy the artist, Hauser & Wirth and Luhring Augustine
ピピロッティ・リスト(1962年生)は,スイスを拠点に国際的に活躍する女性アーティストです。1980年代からヴィデオを用いて女性の身体やジェンダー,自然をテーマとした作品を制作・発表,一貫して人間の眼を「血の通ったカメラ(blood-driven camera)」と呼び,身体的リアリティとテクノロジーの融合によって映像作品の可能性を拡張してきました。色彩豊かな映像と心地よい音楽が融合したマルチメディア・インスタレーションは,国や世代を超えて幅広い観客を魅了してきました。
作家として大きな転機となったのが,1997年ヴェネチア・ビエンナーレで発表され若手作家優秀賞を受賞した《永遠は終わった,永遠はあらゆる場所に/Ever Is Over All》です。この作品では,水色のワンピースと赤い靴を身につけた女性が,街を歩きながらシャグマユリ(クニフォフィア)の花の形をしたハンマーで,楽しそうに車の窓ガラスを次々と叩き割っていく様子がスローモーションで壁に映し出されます。1990年代フェミニズムの記念碑的作品として知られるリストの代表作です。
《永遠は終わった,永遠はあらゆる場所に》 1997年
2チャンネル・ヴィデオ・インスタレーション
クンストハレ・チューリヒでの展示風景 Photo by Alexander Trohler
京都国立近代美術館蔵
© Pipilotti Rist, All images courtesy the artist, Hauser & Wirth and Luhring Augustine
また「アパートメント・インスタレーション」と称する居住空間を再現したような展示では,映像と家具,そして自由に歩き回る鑑賞者の身体が溶け合う様子を楽しむことができます。普段の直立姿勢の鑑賞スタイルとは異なり,靴を脱いで心地よいカーペットの上で寝転んだり,ソファに腰掛けたり,テーブルを囲んだりと,全身の筋肉を緩めながら作品を鑑賞するうちに,凝り固まった思考も少しずつほぐれていくかもしれません。
日本での個展はおよそ13年ぶりとなる今回の展覧会は,身体,女性,自然,エコロジーをテーマとした作品およそ40点で構成され,約30年間の活動の全体像を本格的に紹介します。ピピロッティ・リストのユーモアと遊び心あふれる没入型の映像体験を通して,コロナ禍における美術館と鑑賞者の関係を再構築する機会となるでしょう。
《4階から穏やかさへ向かって》 2016年
4チャンネル・ヴィデオ・インスタレーション
オーストラリア現代美術館での展示風景 Photo: Anne Kucera
© Pipilotti Rist, All images courtesy the artist, Hauser & Wirth and Luhring Augustine
京都国立近代美術館
(住所)〒606-8344 京都市左京区岡崎円勝寺町
- 問合せ
- 075-761-4111
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■JR・近鉄京都駅前(A1のりば)から
市バス5番 銀閣寺・岩倉行「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
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市バス100番(急行)清水寺・銀閣寺行「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
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「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
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- 月曜日※ただし5月3日(月・祝)は開館
- 観覧料
-
一般1,200円(1,000円),大学生500円(400円)
※( )内は前売・20名以上の団体料金および夜間割引(金・土曜午後5時以降)
※高校生以下・18歳未満は無料
※障害者手帳を御持参の方 (付き添いの方1名を含む)は無料 - ホームページ
- https://www.momak.go.jp/Japanese/exhibitionArchive/2021/441.html