2021年6月25日
なぜ私たちは洋服を着ているのか、考えたことはありますか
国立新美術館 主任研究員 本橋弥生
なぜ私たちは洋服を着ているのでしょうか――あなたは考えたことがありますか?おそらく、そんなことを考えて暮らす人は、現在の日本ではほとんどいないと思います。ですが、明治維新から戦後すぐ頃までの日本では、「和服を着るのか」あるいは「洋服を着るのか」というのは、非常に重要な問題で、熱い議論が繰り返されて来ました。
本展は、戦後から、現在の最新の動向まで、日本のファッション文化の軌跡を辿り、その魅力に迫る展覧会です。創造するデザイナー(発信者)と、時代のムーヴメントを生み出した消費者(受容者)の双方向からとらえ、両者をつないだメディア(雑誌、映画、TVなど)も参照し、約100年の日本のファッション文化と社会のあり様を概観します。

銀座、女性たち/1935年/東京都写真美術館
撮影:師岡宏次
たとえばこの女性たち。戦前、日本で一番洗練されていた憧れの都会、銀座では、ごく自然に、洋装した人と和装した人が共存していた様子が写されています。銀座なので洋装をした人も多く写されていますが、戦前は男性は洋装、女性は和装の人がまだまだ主流でした。

『それいゆ』第31号 表紙/1954 年/ひまわり社発行、表紙画:中原淳一/国立新美術館/🄫JUNICHI NAKAHARA/ HIMAWARIYA
戦中の国民服やもんぺを経て、洋装は戦後、一気に広まりました。戦時中、活動的な装いを経験した後、和服を日常着にする人は激減し、1950年代は空前の「洋裁ブーム」が興ります。日本中の多くの女性たちが洋裁学校へ殺到し、自分や家族の洋服を作り、洋裁の技術で生計を立てたのです。この時代、中原淳一の描いたファッション画やデザインは、少女や若い女性たちの洋装への憧れを掻き立てました。

鋤田正義/Kansai Yamamoto×デヴィッド・ボウイ/1973年
その後、日本の洋裁文化は、女性たちのすさまじい熱量で劇的に成熟します。60年代から70年代にかけて、ファッションの主役が若者へと移っていきます。そして、世界の舞台で、前衛的で革新的な作品を発表し、高く評価されるデザイナーたちが登場します。たとえば、この山本寛斎の作品は、デヴィッド・ボウイのためにデザインされました。

『FRUiTS』8月号 No.13 表紙/1998年/ストリート編集室発行/個人蔵
90年代に入ると、日本のストリートファッションが世界から注目を集めるようになります。この『FRUiTS』は1997年に創刊されたストリートスナップ誌ですが、個性的なファッションを楽しむ様子は、海外からも注目を浴び、やがてそれは日本独自のファッションとして広く知られていくようになりました。
会場では約820点の膨大な数の作品が展示されます。きっと懐かしい想い出が沢山、蘇ってきます。今迄の歩みとこれから何を着るのか、思いを馳せながらぜひご高覧下さい。
国立新美術館
(住所)〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2
- 問合せ
- 03-5777-8600(ハローダイヤル)
- 交通
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東京メトロ千代田線乃木坂駅
青山霊園方面改札6出口(美術館直結) - 開館時間
- 日・月・水・木曜日 10:00~18:00(入場は閉館30分前まで)
金曜日・土曜日 10:00~20:00 - 休館日
- 毎週火曜日
- 観覧料
- 1,700円(一般)、1,200円(大学生)、800円(高校生)
混雑緩和のため、事前予約制(日時指定券)を導入。
※中学生以下は入場無料。
※障害者手帳をご持参の方(付添の方1名含む)は入場無料。 - ホームページ
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https://fij2020.jp