2021年10月20日
ヨーゼフ・ボイスとブリンキー・パレルモ
―ふたつの、あわいの芸術
国立国際美術館 情報資料室長 福元崇志
ヨーゼフ・ボイス(1921-86)という、第二次世界大戦後のドイツを代表する彫刻家と、その教え子のひとりである画家のブリンキー・パレルモ(1943-77)。ここ日本でもくりかえし紹介されてきた前者について再考しつつ、いまだほとんど知られていない夭逝の後者を紹介、そのうえで両者に共通する造形理念を探ることが、本展覧会「ボイス+パレルモ」のねらいです。

ヨーゼフ・ボイス 《ブリンキーのために》 1980年頃
ヒロセコレクション
まずは、ボイスの仕事をふりかえってみましょう。「人は誰もが芸術家」という言葉で知られるボイスは、造形をとても広い意味で捉えていました。ひとり物思いにふけるとか、誰かと話をするとか、また日々の仕事に勤しむとか、人間の行為のおよそすべてが芸術実践であるというわけです。そして、社会を彫塑することさえ云々するからこそ、彼は自ら作品を手がけなければなりませんでした。脂肪やフェルトや銅を用いた、不定形で、色味の冴えない作品群。しばしば完結せず、流動的かつ曖昧であるそれらは、玩味の対象となりえず、むしろ、ときに苛立ちをもたらすことさえあるでしょう。ボイスにとって作品とは、私たち鑑賞者のせまい芸術観を拡張するための、いわば「刺激剤」のようなものでした。

ヨーゼフ・ボイス 《小さな発電所》 1984年
国立国際美術館
Photo: Tom Carter
いっぽうのブリンキー・パレルモは、15年に満たない限られた活動期間のなかで、絵画の成立根拠をさまざまに問い直していきます。たとえばカンヴァスや木枠などの支持体、つまりイメージの「受け皿」それ自体を前景化してみせたり、既製品の布を買い、縫い合わせてもらうことで一枚の画面とみなしてみたり。また、1960年代の後半から始められる壁画の作品群においては、既存の建築構造(たとえば窓や扉の配置)から、引くべき線や塗るべき色を逆算して導きだし、絵画空間と日常空間の境界を曖昧化させてもいました。1973年には拠点をニューヨークに移し、〈金属絵画〉というシリーズで色彩の可能性を追求していたパレルモですが、77年、旅先のモルディブにて早すぎる死を迎えることになります。

ブリンキー・パレルモ 《無題(布絵画:緑/青)》 1969年
クンストパラスト美術館、デュッセルドルフ
©Kunstpalast – ARTOTHEK
ボイスとパレルモ。両者の手がける作品は、一見したところ遠く隔たっています。ドロドロして暗いボイスと、スッキリ明るいパレルモ、といった具合に。しかし芸術と日常とのあいだ、作ることと生きることとのあいだを行きつ戻りつしていた点、彼らはよく似ていました。また、目の前の物体によって、目に見えない何かを意識させようとしていた点も。ボイスと、ボイスがもっとも親近感を抱いていた弟子のパレルモ。このふたりの実践をとおして、芸術のもつ潜勢力に思いを馳せる機会となれば幸いです。
国立国際美術館 「ボイス+パレルモ」
〒530-0005 大阪市北区中之島4-2-55
- 問合せ
- 06-6447-4680
- 交通
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- 京阪電車中之島線「渡辺橋駅」(2番出口)から南西へ徒歩約5分
- Osaka Metro四つ橋線「肥後橋駅」(3番出口)から西へ徒歩約10分
- JR「大阪駅」、阪急電車「大阪梅田駅」から南西へ徒歩約20分
- JR大阪環状線「福島駅」、東西線「新福島駅」(2番出口)から南へ徒歩約10分
- 阪神電車「福島駅」(3番出口)から南へ徒歩約10分
- Osaka Metro御堂筋線「淀屋橋駅」、京阪電車「淀屋橋駅」(7番出口)から西へ徒歩約15分
- 大阪シティバス「大阪駅前」から、53号・75号系統で、「田蓑橋」下車、南西へ徒歩約3分
- 開館時間
- 10:00~17:00
※毎週金・土曜日は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで - 休館日
- 月曜日(ただし、12月27日(月)-1月3日(月)は休館、1月10日(月・祝)は開館し、1月11日(火)は休館)
- 観覧料
- 一般1,200円(1,000円)、大学生700円(600円)
※( )内は20名以上の団体および夜間割引料金(対象時間:金曜・土曜の17:00-20:00)
※高校生以下・18歳未満無料(要証明)・心身に障がいのある方とその付添者1名無料(要証明)
※本料金で、同時開催のコレクション展もご覧いただけます。
- ホームページ
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https://www.nmao.go.jp/