2021年12月17日
香港有情―香港映画と人間の絆
国立映画アーカイブ主任研究員 大澤浄
日本の映画ファンが愛してやまない香港映画。1970年代以降、ブルース・リーに始まり、ジャッキー・チェンやチョウ・ユンファ、チャウ・シンチーといったスターが大活躍する、ワクワクするような娯楽映画の虜になった人は多いでしょう。残念ながら1990年代以降は製作本数や興行収入が減少し、かつての勢いは失われつつあります。つい最近では検閲条例が改正されるなど、自由な映画作りがしづらくなるのではという不安もささやかれています。本企画「香港映画発展史探究」には、そんな今だからこそ、香港映画の知られざる歴史を振り返り、その豊かな実りを再発見したいという願いがこめられています。

『最後のブルース・リー ドラゴンへの道』
(1972年、ブルース・リー監督)
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香港映画の一番の魅力は何でしょうか。それはズバリ、人間同士の絆が情感豊かに描かれていることでしょう。香港人は、何よりも家族を大切にします。アレン・フォン監督の『父子情』(1981年)では、息子を大学に入れていい暮らしをさせたいがために、息子にとても厳しくあたってしまう父親の姿を描いています。一般的にはとても共感できない父親ですが、映画が進むにつれて、次第に息子思いの愛おしい人物に見えてくるのが演出のマジックです。他にも『寒い夜』(1955年、李晨風監督)や『野バラの恋』(1960年、王天林監督)では息子思いの印象的な母親が、『董夫人』(1970年、唐書璇監督)では娘のために悲痛な思いで身を引く母親が登場します。

『父子情』
(1981年、アレン・フォン監督)
Sil-Metropole Organisation Ltd.
親子と同様、兄弟間の絆も熱く描かれます。大人気作『男たちの挽歌』(1986年、ジョン・ウー監督)、そしてそのオリジナルとなった『英雄本色』(1967年、龍剛監督)では、本来仲の良かった兄弟が激しく憎しみ合い、やがて和解する姿が鮮烈に描かれます。また、『花火降る夏』(1998年、フルーツ・チャン監督)では、職を失った兄が弟を頼ってヤクザになり、共に破滅へと突き進む姿が、荒涼とした映像に映し出されます。彼らは一見冷めているように見えますが、互いのピンチには身を張って助け合います。

『花火降る夏』
(1998年、フルーツ・チャン監督)
Courtesy of Focus Films Limited
もちろん、人と人の絆は家族だけにとどまりません。『ブラッド・ブラザース 刺馬』(1973年、張徹監督)はタイトル通り、血縁関係にない3人の男が義兄弟となる武俠映画です。また、辛亥革命直後の北京を舞台にした『北京オペラブルース』(1986年、ツイ・ハーク監督)では、3人の女性が偶然出会い、ドラマが始まります。3人はいずれも現在の境遇に不満を抱いていますが、互いに友情を結ぶ中で、やがて中国の民主化のために危険な作戦に打って出ることになります。友情によって、女性たちもまた、歴史の表舞台に参加するまでの力を得るのです。日本では最近、2019年に香港で起きたデモを記録した複数のドキュメンタリーが上映される機会がありましたが、その中で最も印象深かったのは、十代や二十代の若いデモ参加者同士の義兄弟的な強い絆でした。香港人そして香港映画には、今もこうした人間の絆が脈々と受け継がれています。この上映会が、そうした「情」の歴史にふれる機会になることを願っています。

『北京オペラブルース』
(1986年、ツイ・ハーク監督)
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国立映画アーカイブ 「香港映画発展史探究」
〒104-0031 東京都中央区京橋3-7-6
- 会期日
- 2022年1月4日~1月30日
- 問合せ
- 050-5541-8600(ハローダイヤル)
- 交通
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- 東京メトロ 銀座線京橋駅下車 出口1から昭和通り方向へ徒歩1分
- 都営地下鉄 浅草線宝町駅下車 出口A4から中央通り方向へ徒歩1分
- 東京メトロ 有楽町線銀座一丁目下車 出口7より徒歩5分
- JR東京駅下車 八重洲南口より徒歩10分
- 開館時間
- 火曜日~日曜日 11:00~20:00
※各上映のスケジュールや開始時間等はHPでご確認ください。 - 休館日
- 月曜日、年末年始
- 観覧料
- 一般520円、大学生・高校生・65歳以上310円、小・中学生100円、
障害者(付添者は原則1名まで)・キャンパスメンバーズ無料 - ホームページ
-
http://www.nfaj.go.jp/