2022年1月25日
映画ポスターは未踏の荒野を走る――MONDO(モンド)の挑戦
岡田秀則(国立映画アーカイブ主任研究員)
1997年、アメリカのテキサス州オースティンに一軒の映画館が開業しました。他の館と同じような新作の公開だけでなく、カルト映画の特集や旧作上映にも熱心なその「アラモ・ドラフトハウス」は、ほどなく地元の映画ファンの注目を集めました。2004年には劇場内に小さなTシャツ店をオープンしますが、やがて、上映会のためにアーティストたちに制作を依頼したオリジナルのポスターが人気を呼びます。MONDO(モンド)というレーベル名のもと、2010年前後からスクリーンプリント技法によるポスター制作を本格化、華麗な色使いによる限定版のポスターは、オンラインショップを通じていまや世界中にファンを生んでいます。フィギュアやグッズ、レコードなども人気商品となり、同時に親会社の「アラモ・ドラフトハウス」も全米で40館以上を擁するチェーンに成長しました。

『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』(1980年/アメリカ/アーヴィン・カーシュナー監督) ポスター:タイラー・スタウト(2010年) MONDO所蔵
「MONDO 映画ポスターアートの最前線」は、この現代映画ポスター界の風雲児が、道なき道を疾走してきたその足跡をたどる展覧会です。映画作品のエッセンスを活かしながらも、細密な登場人物の描き込み、ストーリーの大胆な抽象化、パンキッシュで荒ぶる筆使い、映画内の意外なシーンの採用など、あくまでアーティスト個々の作風が尊重されるMONDOの作品はまるで一様ではありません。

『レポマン』(1984年/アメリカ/アレックス・コックス監督) ポスター:ジェイ・ショー(2013年) MONDO所蔵
映画会社が作る宣伝用のポスターの多くが、マーケティング戦略に制約されてエッジの利いた表現を受け入れにくい昨今、アーティストの自由な解釈で映画を一枚の紙の上に表現し、時にはクライマックス・シーンも堂々と描いてしまうMONDOのグラフィックは、映画ポスターの常識に風穴を開けました。音楽産業が送り出すメインストリームとしてのロックやポップスに対して、敏感なファン層を背景にオルタナティブ・ロックやインディーズ・ポップが生まれたように、映画ポスターにも「もう一つの=オルタナティブ」の時代が訪れたと言えるでしょう。

『タクシードライバー』(1976年/アメリカ/マーティン・スコセッシ監督) ポスター:マルティン・アンシン(2013年) MONDO所蔵
この展覧会では、国立映画アーカイブと京都国立近代美術館の共催により、MONDOの提供による71点の作品を展示します。また5月19日から7月18日まで、京都国立近代美術館(コレクション・ギャラリー)にも巡回します。映画から触発されたポスター作家たちのパッションと、紙とインクが織りなすスクリーンプリントの豊かな質感を心ゆくまでお楽しみください。

『カリガリ博士』(1920年/ドイツ/ローベルト・ヴィーネ監督) ポスター:ベッキー・クルーナン(2015年) MONDO所蔵
国立映画アーカイブ
〒104-0031 東京都中央区京橋 3-7-6
- 問合せ
- ハローダイヤル050-5541-8600
- 交通
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- 開館時間
- 展示室:開室時間 11:00am-6:30pm(入室は6:00pmまで)*毎月末金曜日は11:00am-8:00pm(入室は7:30pmまで)
上映:企画によって異なる - 休館日
- 月曜日、上映準備・展示替期間、年末年始
- 観覧料
- 展示室:一般250(200)円/大学生130(60)円
※高校生以下及び18歳未満、65歳以上、障害者手帳をお持ちの方(付添者は原則1名まで)、国立映画アーカイブのキャンパスメンバーズは無料。
※( )内は20名以上の団体料金。
※学生、65歳以上、障害者、キャンパスメンバーズの方は、証明できるものをご提示ください。
※国立映画アーカイブの上映観覧券(観覧後の半券可)をご提示いただくと、1回に限り団体料金が適用されます。
上映:
【所蔵作品上映】一般 520円/高校・大学生、65歳以上 310円/小・中学生 100円
【特別上映・共催上映・教育普及企画】企画によって異なる
※学生、65歳以上、障害者、キャンパスメンバーズの方は、証明できるものをご提示ください。
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