2022年3月11日
アール・ヌーヴォーは、どこから来てどこへ行く?
めぐりめぐる工芸とデザイン
国立工芸館 主任研究員 中尾優衣
フランス語で「新しい芸術」を意味するアール・ヌーヴォー。その様式の特徴は、植物などの有機的なモチーフに由来し、曲線を多く用いる優美な装飾性にあります。19世紀末から20世紀初頭にかけて広くヨーロッパで流行しましたが、その誕生に影響を与えたのは、遠く離れた日本の美術でした。
アルフォンス・ミュシャ《サラ・ベルナール》1896年 東京国立近代美術館蔵
19世紀後半、開国後の日本を訪れた外国人の眼を通して、あるいは日本からもたらされた浮世絵や工芸品などによって、日本の姿が欧米で次第に知られるようになると、ジャポニスムが流行しました。従来の西洋美術におけるものの見方を転換させてしまうほどの新鮮な驚きを与えた日本美術は、新しい芸術表現を模索する人々のよりどころとなりました。そうした時代のなかで育まれたのが、まさに文字通りの「アール・ヌーヴォー」だったのです。
アンリ・ヴァン・ド・ヴェルド《トロポン》1898年頃 東京国立近代美術館蔵
そして1900年前後になると、アール・ヌーヴォーの流行がジャポニスムの母胎である日本においても知られるようになり、今度はアール・ヌーヴォーが日本の美術家たちのあいだに広まっていきました。日本人にとってのアール・ヌーヴォーは最先端の芸術運動を意味するとともに、西洋のモード――新しい様式とその流行――に還流した、みずからの姿を映しだす鏡でもあったと言えるでしょう。
杉浦非水《三越呉服店新館落成》1914年 東京国立近代美術館蔵
撮影:アローアートワークス©2000
「めぐるアール・ヌーヴォー展 モードのなかの日本工芸とデザイン」では、この〈めぐる〉という興味深い現象に焦点をあてて、異なる文化の出会いが生み出した豊かな表現をご紹介します。展覧会では、アルフォンス・ミュシャ、エミール・ガレなど、アール・ヌーヴォーの代表的な作家を紹介するとともに、その流行に素早く反応したことがうかがえる初代宮川香山や、二代横山彌左衛門、杉浦非水、浅井忠などの作品もあわせて展示します。
初代宮川香山《色入菖蒲図花瓶》1897-1912年頃 東京国立近代美術館蔵
撮影:アローアートワークス©2006
さらに、ジャポニスムの時代に欧米で賞賛された日本の装飾芸術の誇るべき特質にも着目します。めぐる季節のなかで培われてきた自然への細やかな眼差しが、現代までどのように受け継がれているのかということを、工芸家たちのさまざまな表現を通してご紹介します。アール・ヌーヴォーを入り口として、時代や国を超えて自然と響きあう人々の豊かな感性に触れていただく機会となれば幸いです。
松田権六《蒔絵玉すだれ文盤》1953年 東京国立近代美術館蔵 撮影:米田太三郎©1978
国立工芸館
〒920-0963 石川県金沢市出羽町3-2
- 問合せ
- 050-5541-8600(ハローダイヤル)
- 交通
- JR金沢駅東口(兼六園口)からのアクセス方法
- ■バス
【路線バス】
3番乗り場:18系統に乗車(約12分)、「広坂・21世紀美術館(石浦神社前)」下車徒歩7分
7番乗り場:どの系統でも乗車可(約11分)、「広坂・21世紀美術館(しいのき迎賓館前)」下車徒歩9分。
6番乗り場:乗車(「柳橋」行を除く)(約12分)、「出羽町」下車徒歩5分
【城下まち金沢周遊バス】
6番乗り場:右回りに乗車(約18分)、「広坂・21世紀美術館(石浦神社前)」下車徒歩7分。
左周りに乗車(約20分)、「広坂・21世紀美術館(石浦神社向い)」下車徒歩7分
【まちバス】※土日祝のみ運行
5番乗り場:乗車(約20分)、「金沢21世紀美術館・兼六園(真弓坂口)」下車徒歩約7分
- ■タクシー
約4km、平常時で約10~15分
- 開館時間
- 9:30~17:30(入場は閉館30分前まで)
- 休館日
- 月曜日(ただし3月21日は開館)
- 観覧料
-
一般300円,大学生150円
*高校生以下および18歳未満、65歳以上、MOMATパスポート・学パスをお持ちの方、友の会・賛助会員の方、MOMAT支援サークルパートナー企業(同伴者1名まで、シルバーパートナーは本人のみ)、キャンパスメンバーズ、障害者手帳をお持ちの方と付添者(1名)は無料。
*いずれも消費税込。
- ホームページ
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https://www.momat.go.jp/cg/exhibition/the-cyclical-nature-of-art-nouveau/