2022年6月24日
九兵衞と六兵衞をつなぐもの
「生誕100年 清水九兵衞/六兵衞」展
大長智広 京都国立近代美術館主任研究員
京都国立近代美術館では清水九兵衞/七代六兵衞の生誕100年を記念した回顧展を開催します。清水は様々に名前を変えて(洋士、洋、裕詞、五東衞、九兵衞、六兵衞)作品を発表したこと、また、彫刻と陶芸という異なる分野で活動を行ったことから、立体造形作家としての表現を俯瞰して見渡すことが難しい作家です。本展は九兵衞と六兵衞を一本の軸で繋ぎながらその全体像を概観する初めての試みです。
清水の陶芸を考えるうえでの前提は、京焼の名家である清水家に養子として入ることがきっかけで陶器に出会ったという事実及び1960年代末より約20年間、金属彫刻を手掛けて世界的に活動したのちに改めて七代六兵衞として陶器を手掛けたという点です。つまり陶芸家としての清水は「外部」からの視点を常に清水家、京焼、そして陶芸界に投げかける存在でした。その作陶の特徴は、肉厚でボリュームのある造形、極薄で扁平な器形と切りっぱなしの口や輪郭の処理、重力や焼成を利用した歪み、器物の造形構造を視覚化させる装飾、切断と再構成といった従来の陶芸作品にはほとんどみられなかったものになります。
層容 1957 32.8×24.1×23.2
東京国立近代美術館蔵
これらの特徴は清水が活動を始めた1950年代の陶芸界においては極めて斬新なものでした。しかし、その後に清水は彫刻家へと転進します。その背景には「土の質感に対する嫌悪感」があったことを作家自身が述べています。これは土による様々な試みを行ったがゆえに、陶土のもつ特性と「出会った」結果だといえます。ただし、この清水と陶土との間にある距離感が、逆説的に清水に素材・構造・手法などに対する客観的視点をもたらすことになり、その視点が先述した清水独自の造形世界を生み出しました。この点は、陶芸家・七代六兵衞としての活動においても同様です。
截土容黒耀壱輪挿 1998 29.5×19.0×21.0
一方で、彫刻家・九兵衞の作品は、板や立方体、柱などのユニットを組み合わせたものです。これらはマッスやボリュームなどの近代的な彫刻概念とは性質を異にする、水平や垂直を通じたフォルムという独自の方法論に基づいています。
FIGURE 15 1988 208.0×208.0×119.5
大阪府20世紀美術コレクション蔵
九兵衛と六兵衞を繋ぐ鍵を素材の「質感」に求めるならば、清水は饒舌な陶土に対して、「無口」な金属については「いかにうまくしゃべらせるか」、「その質感をいかにしてフォルムにマッチさせるように引き出してみせるか」と語ります。つまり、彫刻家による金属の質感への態度は、陶土との距離感を感じつつも饒舌な陶土に好きなだけしゃべらせる陶芸家の仕事と実は裏表の関係にあります。言いかえると、「質感をいかに消化していって造形化、質感のアピールができるか」という言葉に九兵衞と六兵衞という「一人」の造形家をつなぐ結束点を見いだすことができるのです。
PACK A 1997 160.0×530.0×220.0
愛知県陶磁美術館蔵
京都国立近代美術館
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