2022年8月25日
具象と抽象、さまざまな二項対立を超えて
東京国立近代美術館 主任研究員 桝田倫広
東京国立近代美術館では、ゲルハルト・リヒター展が開催中です(10/2まで)。日本の美術館では16年ぶり、東京の美術館では初めての開催です。ゲルハルト・リヒターは1932年、ドイツ東部のドレスデンで生まれた、現代アートを代表する作家のひとりです。リヒターは今年90歳、キャリア60年を迎えました。ちなみに今年12月で東京国立近代美術館は開館70周年を迎えます。作家の生誕や美術館の周年を記念するために企画された展覧会ではありませんが、偶然にもキリの良いタイミングで実現されることになりました。
リヒターは東ドイツのドレスデン芸術造形大学で学び、壁画家として活動をしていました。しかし、1959年、西ドイツのカッセルで開催された国際美術展ドクメンタで、ジャクソン・ポロックやルーチョ・フォンタナの作品を見て、西側諸国の自由な表現に感銘を受け、ベルリンの壁のできる直前、1961年に西ドイツのデュッセルドルフに移住します。デュッセルドルフ芸術アカデミーで学び、作家としてのキャリアをやり直し、その後、ケルンを拠点に活動を続けてきました。
「ゲルハルト・リヒター展」展示風景 撮影:木奥惠三
展覧会をご覧になれば、一人の作家が為したとは思えないほどの多様な表現に驚かれるかもしれません。具象絵画に抽象絵画。モノクロームの作品がある一方で、鮮やかな色彩の作品もあります。ガラス、鏡、写真、映像、デジタルプリント、ドローイングなど、素材も実にさまざまです。しかしながら彼は見ることそのもの、あるいは私たちの前にイメージがあるとはどういうことかを一貫して問うてきました。
「ゲルハルト・リヒター展」展示風景 撮影:木奥惠三
今回の展覧会の見どころのひとつは、2014年に制作された4点の大きな絵画《ビルケナウ》でしょう。当初、リヒターはアウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所で隠し撮りされた4枚の写真のイメージをそれぞれのキャンバスに描きました。しかしその上から絵の具を何層にも塗り重ね、最終的に抽象絵画に仕上げました。ホロコーストといった大きな厄災を表象することは可能かどうか。これはドイツのみならず欧米で長らく議論されてきた問題でした。リヒターは作品制作を通じて、この難問に取り組んだと言えるでしょう。今回の展覧会では、絵画と同寸法の絵画の複製写真と大きなグレイのミラーが合わせて展示され、ひとつの空間を作り上げています。すでに多くの研究者によってさまざまな解釈が提示されてきた、リヒターの近年の重要作のひとつです。あなたはそこに何を見いだすでしょうか。ぜひ会場で実際にご覧ください。
「ゲルハルト・リヒター展」展示風景 撮影:木奥惠三
東京国立近代美術館
〒102-8322 東京都千代田区北の丸公園3-1
- 問合せ
- 050-5541-8600
- 交通
- 東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分(美術館に駐車場はありません)
- 開館時間
- 9:30~17:00(金・土は~20:00)入場は閉館30分前まで
- 休館日
- 月曜日(ただし9月19日は開館)9月20日(火)
- *開館日時は変更になる場合があります。ご来館前に美術館ホームページ等で最新情報をご確認ください。
- 観覧料
- 一般¥2,200 大学生¥1,200 高校生¥700
- *いずれも消費税込。
- *中学生以下、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。それぞれ入館の際、学生証等の年齢のわかるもの、障害者手帳等をご提示ください。
- *本展の観覧料で入館当日に限り、所蔵作品展「MOMATコレクション」(4-2F)もご覧いただけます。
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