2022年9月26日
李禹煥 創造の軌跡
国立新美術館主任研究員 米田尚輝
李禹煥(リ・ウファン)は1936年に韓国で生まれ、1956年に来日し、現在は日本とフランスを拠点に活動する美術家です。

李禹煥、鎌倉にて、2022年 Photo© Lee Ufan, photo: Shu Nakagawa
1950年代末から1960年代初頭にかけて、石、鉄板、ガラス、木材、電球などの工業素材や日用既製品を用いて、それらに殆ど手を加えることなく素材を組み合わせて造形することを特徴とする美術運動が起こりました。「もの派」と呼ばれるこの運動を理論と実践で牽引した人物が李です。
「もの派」は彫刻ないしは立体作品を中心とした美術運動でした。李もまた彫刻を初期から今日まで制作しています。ガラス板、鉄板、石を組み合わせた彫刻シリーズ〈関係項〉は「もの派」時代のモニュメンタルな作品です。

《関係項》1968/2019年 石、鉄、ガラス
石:約80 ×60 ×80 cm、鉄:240 ×200 ×1.6 cm、
ガラス:240 ×200 ×1.5 cm 森美術館、東京
Photo: Kei Miyajima
この李の代表的な彫刻シリーズでは、ガラス板と鉄板は割られたり割れていなかったりします。そこには割るという作家の身体的行為が内包されており、ある種の暴力的な出来事が暗示されているのです。その一方で李は、絵画も一貫して精力的に描き続けてきました。1970年代から始まった〈点より〉と〈線より〉の絵画シリーズは、筆触の差異と反復によって構成されるものです。

《線より》1977年 岩絵具、膠/カンヴァス 182×227 cm 東京国立近代美術館
禁欲的な筆遣いによるこれらのシリーズでは、精神性の高い静謐な画面が達成されています。
2000年代以降、フランスのヴェルサイユ宮殿やラ・トゥーレット修道院、あるいはアルルの古代墓地アリスカンなど、屋外の歴史的建造物を舞台とした作品展示が急増しました。展示場所の特徴に則した展示方法は、李の作品のスケールそのものを変貌させました。今日の李の仕事の特徴のひとつは、人工と自然との対峙と共存とを、壮大な展示環境において実現することです。
「国立新美術館開館15周年記念 李禹煥」展は、李禹煥にとって厳密な意味で初めての「回顧展」となります。これまで国内外の美術館で李の個展は数多く開催されてきましたが、1960年代に始まる初期活動から、2022年に制作された最新作に至るまで、絵画と彫刻を網羅的に紹介する展覧会は今回が初めてです。2011年にニューヨークのグッゲンハイム美術館、そして2019年にポンピドゥー・センター=メスでも個展が開催されていますが、最初期から今日までの李の芸術活動を辿るものではありませんでした。その意味で今回の展覧会は李の創造の軌跡を眺めることができる貴重な機会となるでしょう。
国立新美術館
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