2023年3月24日
憧憬の地 ブルターニュ
―モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷
国立西洋美術館 主任研究員 袴田紘代
この春国立西洋美術館は、フランス・ブルターニュ地方と美術の関係をめぐる展覧会を開催します。
フランスの北西端、大西洋に突き出た半島を核とするブルターニュ地方は、古くケルト人を祖に持ち、16世紀まで独立国をなしていました。入り組んだ海岸線や荒野、内陸部の深い森などの豊かな自然にくわえ、各地に残る古代の巨石遺構や中近世のキリスト教モニュメントでも知られます。19世紀頃までは人々がケルト系言語の「ブルトン語」を日常的に話し、多くの地域で素朴な生活様式が営まれていました。このように独自の自然景観と歴史文化を持つフランスの内なる「異郷」ブルターニュは、19世紀初めにロマン主義の時代が到来すると画家たちに注目されるようになります。以来この地は様々な流派や国籍の画家を受け入れ、彼らにインスピレーションを与え続けてきました。
本展では、19世紀後半から20世紀初めに描かれたブルターニュにまつわる作品約160点から、画家たちがこの地になにを求め、見出したのかを探っていきます。さらに画家たちのブルターニュ滞在について臨場感をもって思いを馳せていただけるよう、画家が旅先から送ったり受け取ったりした葉書や、旅行トランクなどの関連資料もあわせて展示することにしました。

ウィリアム・ターナー 《ナント》 1829 年 水彩/紙 ブルターニュ大公城・ナント歴史博物館
展覧会の冒頭は、ブルターニュ地方の景観を描いたイギリスの風景画家ウィリアム・ターナーの水彩画など、19世紀初めの「ピクチャレスク・ツアー(絵になる風景を地方に探す旅)」を背景に生まれた作品から出発します。世紀の後半、交通網が発達して旅が身近になった時代の版画作品やポスターからは、時代とともに形づくられ世に広がっていくブルターニュのイメージを概観することができるでしょう。また旅する画家たち、とくに印象派世代のウジェーヌ・ブーダンやクロード・モネらがとらえたブルターニュの表情豊かな風景は、自然と向き合う画家たちの真摯なまなざしを感じ取らせてくれます。

クロード・モネ 《ポール=ドモワの洞窟》 1886 年 油彩/カンヴァス 茨城県近代美術館
次の世代のポスト印象派の画家たち、すなわちブルターニュに繰り返し滞在し、野生と原始的なるものを探求したポール・ゴーガンと彼の周りに集った画家たちは、ポン=タヴェンという小村を主な拠点に、ともに新しい美術のあり方を模索しました。彼らはブルターニュ特有の風土にも着想を得ながら、近代美術史に残る表現様式を試みるようになります。

ポール・ゴーガン 《海辺に立つブルターニュの少女たち》 1889年 油彩/カンヴァス
国立西洋美術館 松方コレクション
また19世紀末から20世紀にかけ、ブルターニュに別荘を構えてこの地を見つめ続けた作家たちも多くいました。今回はなかでも版画家アンリ・リヴィエールやナビ派の画家モーリス・ドニ、「バンド・ノワール」と呼ばれたシャルル・コッテやリュシアン・シモンたちの作品を取り上げます。土地との長期の対話が生む表現とはどのようなものなのか。そして松方幸次郎や大原孫三郎ら、20世紀初めの実業家たちが収集した彼らの作品が、今回多く展示されていることにも注目していただきたいと思います。
実はブルターニュを訪れ、描いた画家たちのなかには少なからぬ日本の美術家たちも名を連ねています。本展では明治・大正期に渡仏した黒田清輝や久米桂一郎をはじめ、山本鼎や藤田嗣治、岡鹿之助らがブルターニュを画題に描いた作品をまとめてご覧いただき、彼らの足跡にも光をあてます。
旅心を誘われるこれからの季節、画家たちのまなざしを借りながらブルターニュの各地をめぐり、その芸術を育む奥深い風土を体感していただければ嬉しく思います。
国立西洋美術館
(住所)〒110-0007 東京都台東区上野公園7-7
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- 9:30~17:30
- 毎週金・土曜日 9:30~20:00
- ※入館は閉館の30分前まで
- 休館日
- 月曜日 (ただし、3月27日(月)、5月1日(月)は開館)
- ※予告なく変更になる場合があります。最新情報は展覧会公式サイトでご確認ください。
- 観覧料
- 一般2,100円、大学生1,500円、高校生1,100円
- ※日時指定制。詳細は展覧会公式サイトチケット情報をご確認ください。
- ※中学生以下、心身に障害のある方及び付添者1名は無料(入館の際に学生証または年齢の確認できるもの、障害者手帳をご提示ください)。
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