2023年5月25日
美術館とアーティスト、両者の関係の出発点をさぐる展覧会
牧口千夏(京都国立近代美術館 主任研究員)
京都国立近代美術館は今年4月27日に開館60周年を迎えました。人間で言えば「還暦」、この節目の年に改めて美術館のこれまでとこれからを考える機会として、当館の設立初期の活動を振り返る展覧会「Re:スタートライン 1963-1970/2023 現代美術の動向展シリーズにみる美術館とアーティストの共感関係」を開催しています(2023年7月2日まで)。
「現代美術の動向」展とは、当館が1963年から 1970年まで毎年開催していた定点観測的なグループ展シリーズです。国公立の美術館がまだ少なかった1960年代当時、日本の現代美術の中堅・若手作家を紹介する展覧会として大きな注目を集めました。
1960年代の日本は高度成長期を迎え、東京五輪や大阪万博といった国家イベントを通して戦争からの復興を国際的にアピールするとともに、東海道新幹線の開通が象徴するインフラ整備、テレビや電話、家電製品の普及などにより、社会や生活がめざましく変化した時代でもありました。こうした変化を背景に、美術においても新しい価値観にもとづく表現が多数生み出されることとなりました。
「現代美術の動向」展は、美術館が同時代の目まぐるしく変貌する美術の状況と向き合い、若い世代のアーティストや鑑賞者との共感にもとづく実験場となるべく創始されました。全9 回におよぶ「動向」展は「過去1年間注目すべき仕事を発表した中堅・新進の作家の作品」が選ばれ、話題作品を中心に構成した、いわばアートシーンのトレンドを紹介する展覧会でした。今回の展覧会では、1963年から1970年までの「動向」展の出品作を年代順に辿っていますが、会場を一巡すると、わずか7年の間に起きた表現の多様化に驚かされます。
「動向」展が創始されてまもない1963年・1964年展は、1950年代の前衛として知られる具体美術協会やパンリアル美術協会等の作家による、身体性と物質性を強調した抽象表現主義の絵画が主流でした。一方で東京を中心に高まりを見せていた荒川修作や中西夏之らネオ・ダダによる反芸術的傾向を関西でいち早く紹介しています。1965年・1966年展では、中馬泰文や岡本信治郎などのマンガ的表現やポップ・アート的傾向、森本紀久子や八田豊らの緻密な画面構成による絵画を取り上げています。

中西夏之《洗濯バサミは撹拌行動を主張する》1963年 東京都現代美術館蔵 🄫NATSUYUKI NAKANISHI
工業素材の使用や、「絵画」や「彫刻」といった既成の枠組みを逸脱する表現が顕著になったのが1967年・1968年展です。福嶋敬恭や榊健らが展示空間を占有するインスタレーション的作品を発表して注目を集めます。またメディア・アートの実験的作品ともいえる、吉村益信やヨシダミノル、河口龍夫、山本圭吾らによる光や運動を取り入れたキネティック作品も積極的に紹介されました。

吉村益信 《Queen Semiramis Ⅱ》 1966年 東京都現代美術館蔵
1969年・1970年展では、土や石、木、水など自然の素材や物質を、あまり手を加えずにそのままの形で提示する、いわゆる「もの派」的傾向が急増しました。美術館の建物を用いたその場限りのインスタレーションやハプニングなど、展示室が「創作の現場」となり、関係者の記憶や記録写真だけが頼りの作品も少なくありません。現存する作品が限られる中、今回の展示では李禹煥、ザ・プレイ、松澤宥、菅木志雄、野村仁らによる仕事を、再制作作品や記録写真・資料を通じて紹介しています。

菅木志雄 《無限状況》 1970年 撮影:安齊重男 国立国際美術館 🄫Estate of Shigeo AnzaÏ Courtesy of Zeit-Foto
9回におよぶ展覧会シリーズをダイジェスト的に振り返る今回の展覧会では、293組の出品作家の中から、66組による主な出品作もしくは関連作、記録写真、展覧会に関するアーカイヴ資料を紹介しながら、1960 年代当時の美術館とアーティストが切り結んだ美術の現場のスタートラインを検証します。ぜひご覧ください。
京都国立近代美術館
(住所)606-8344 京都市左京区岡崎円勝寺町
- 問合せ
- 075-761-4111
- 交通
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- □阪急・京阪~バスを御利用の方
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- 「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
- ■阪急烏丸駅・京都河原町駅,京阪祇園四条駅から市バス46番 祇園・平安神宮行「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
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- 「岡崎公園 ロームシアター京都・みやこめっせ前」下車徒歩約5分
- 「東山二条・岡崎公園口」下車徒歩約10分
- □地下鉄を御利用の方
- 地下鉄東西線「東山」駅下車 1番出口より徒歩約10分
- 開館時間
- 火曜日~日曜日 10:00~18:00(入館は閉館30分前まで)
- ※企画展開催中の毎週金曜日は20:00まで(入館は閉館30分前まで)
- 休館日
- 毎週月曜日
- 観覧料
- 一般1,200円(1,000円),大学生500円(400円)
- ※()内は20名以上の団体および夜間割引(金曜午後6時以降)
- ※高校生以下・18歳未満は無料*。
- ※心身に障がいのある方と付添者1名は無料*。
- ※母子家庭・父子家庭の世帯員の方は無料*。
- *入館の際に証明できるものをご提示ください。
- ホームページ
-
https://www.momak.go.jp/Japanese/exhibitionarchive/2023/453.html